坂井希久子(さかい・きくこ)/1977年、和歌山県生まれ。2008年「虫のいどころ」でオール讀物新人賞を受賞。著書に『ヒーローインタビュー』「居酒屋ぜんや」シリーズなど多数(撮影/写真部・高野楓菜)
坂井希久子(さかい・きくこ)/1977年、和歌山県生まれ。2008年「虫のいどころ」でオール讀物新人賞を受賞。著書に『ヒーローインタビュー』「居酒屋ぜんや」シリーズなど多数(撮影/写真部・高野楓菜)
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 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。

坂井希久子さんによる『花は散っても』は、もともと谷崎潤一郎の没後50年を記念し出版される予定だったもの。主人公・美佐が、実家の蔵の中から祖母には小さすぎる着物・銘仙と3冊のノート、知らない美少女の写真を見つけ、祖母の知られざる人生をひもとくことに…というストーリーだ。著者の坂井さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 もともとは谷崎潤一郎の没後50年を記念して2016年くらいに出版される予定だった本作。それが5年後にやっと出版されたのは坂井希久子さん(43)の谷崎愛の深さゆえ。ご自身が好きな『蘆刈(あしかり)』や『吉野葛(くず)』などを下敷きに、谷崎作品のモチーフが随所にちりばめられた緻密な構成の力作だ。夫と別居中の美佐を主人公とした現代と、美佐の祖母・咲子の手記に書かれた過去が入れ子になって物語は進む。実家の蔵で美佐が見つけた時代箪笥(だんす)。中には祖母のものにしては小さすぎる銘仙の着物と隠し底にしまわれた3冊のノートと美少女の写真──この美少女・龍子と咲子の恋が過去パートの主軸だ。

「当時の少女たちは卒業したら親の決めた相手と結婚しなきゃいけない。その前に恋愛しようにも周りに男子はいない。その中で女学生同士が恋をするという尊さが、いじらしくてすごくかわいらしくて何かその世界を守ってあげたいなって。大人から見たら恋の真似ごとみたいに言われるかもしれないんですけど本人たちは本当に真剣だったと思います」

 龍子は美しくわがままなお嬢様だが、谷崎が描く美女と同様にどこか実体感がなく紗(しゃ)がかかったようなイメージだ。それは坂井さんの狙い通りだという。

「自分の好きなもの、美しいものばかりに目がいっちゃってすごく身勝手なんでね(笑)。その雰囲気にのまれてくれる人はすごくドラマチックだと思うでしょうね」

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