とうとう無職になってしまった。マンボウを追い続けて14年。博士号取得後、収入を得ながら自分のやりたい研究を続けることができるのは相当恵まれた人だけなんだなと現実を見て、自問自答しながら働き続けた数年だった。自ら研究し、その成果をわかりやすく一般の方々に伝え、楽しく学んでもらうという自分の理想を実現できる仕事を探しつつ、税金と貯金と向き合いながらどこまで生きていけるのか……単発の取材や講演依頼などが入れば、とりあえず収入が得られるという不安定な新生活がスタートした。
令和型ポスドクの新たな需要として、「レンタル博士」という活動を時々行っている。今回、営業休止になる志摩マリンランドの最終日に、マンボウについていろいろ語ってもらいながら水族館を回って、一緒に最後の時を見届けて欲しいとの依頼が来た。その時の体験談をお話ししよう。
■「レンタル博士」とは何か?
詳細な話は以前書いたコラム「博士の知識を丸一日独り占めにできる『レンタル博士』。その魅力と課題とは? 」をご一読いただきたいが、一言でいうと、博士を個人的にレンタルして、自分の知りたいことを根掘り葉掘り聞くことができる有償サービスのことである。最近流行のレンタル彼女やレンタルおっさんなどの博士版だ。
芸能人と違って毎日依頼が来るわけではなく、私に限ればマンボウに関することしか話せないので、需要はコアな層に限られ、年に数回依頼が来ればいい方だと思っている。てっきり1回ぽっきりで終わるかと思いきや、今回の話を含めてこれまでに5件実施することができた。改めて依頼者に感謝したい。
今のところ、依頼者は一般の方と分野外の研究者が半々で、男女比もちょうど半々だ。マニアが好きな一般の方からしか依頼は来ないと思っていたのだが、他分野の研究者からもレンタルされて正直ビックリした。
コロナ禍で対面式のサービスはなかなか厳しいところであるが、一緒に施設を回って解説してもらえる、実物の標本を触らせてもらえる、他では言えないような秘蔵の話を聞くことができるなど、満足度は高いようで私は嬉しく思う。