理想の「東大出身」とは、「いやいや東大なんて言うほど大したことありませんから」と言いながらも、程良く上から目線で来てくれる「謙虚なお高さ」。世間というのは「注文の多いM男」なのです。

 そんな「理想の東大出身」を、ほぼ完璧に演じているのが、他でもない林修さんではないでしょうか。「お前、そんなことも知らねえのかよ!」と思いつつも、表情には出さず懇切丁寧に答えを教えてくれる。そして一瞬覗かせるドヤ顔。あのドヤ顔が「東大出身」の最大の値打ちです。

 さらに、最近めきめきと頭角を現しているのが、クイズ『東大王』の伊沢拓司さんです。彼こそ、長年求められてきた「東大出身」の集大成なのかもしれません。若さ・そこそこのルックス・東大出身。謙虚さと尊大さを同時に欲しがる「注文の多いM男」からすれば、まさにビンゴな存在。何より彼は、世間が求める文脈にいじらしいほど忠実です。究極の如才なさ。なのに観ているとヒヤヒヤするのは何故なのでしょうか。

 先日、クイズ『東大王』で、卒業していく後輩東大生にメッセージを贈る伊沢さんの姿を観ました。「○○は、どこかで器用になるかと思ったけど、最後まで不器用だった。でも一回も逃げなかった。本当に凄い。それは資質だ。よく頑張った。これからもよろしく!」。絵に描いたような「先輩感」。絵に描いたような「先生感」。まるで『ワンピース』のワンシーンのようでした。『ワンピース』観たことありませんが。

 エンタテイメントに昇華し切れていないリアル青春群像劇。そして一片の曇りもない上から目線。世間はこのヒヤヒヤが好きなのか。ここまで高尚なM心、私にはないかも。

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

週刊朝日  2021年4月9日号

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