村上春樹を代表に、いま、日本の文学が世界で人気だ。そんな日本文学の英語版は、日本人が読んでも楽しめるのだという。現在発売中の『AERA English 2021 Spring & Summer』(朝日新聞出版)では、翻訳文学研究者に話を聞いた。
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川端康成や三島由紀夫などに代表される日本文学は戦後、次々と英訳され、海外でも多くのファンを獲得した。そして現在、日本文学はより幅広く英訳されている。国際交流基金の「日本文学翻訳書誌データベース」によると、戦後から現在に至るまで日本文学の英訳作品は1万冊以上に上る。文学研究者で翻訳家の由尾瞳さんはこう話す。
「1950~60年代は日本という異文化が大きな興味の対象でしたが、村上春樹の登場以降、作品そのもののユニークさに注目が集まるようになり、翻訳事情は大きく変わりました。今はジェンダーやマイノリティー問題への意識も高まり、伝統的なイメージにとらわれない現代作家の作品が多く英訳されています」
日本文学、というと純文学をイメージしがちだが、肩ひじ張らず、自分の好きな作家や原書の英訳を探すことから始めてみるのもいい。
「文学といっても、大衆文学やライトノベル、子ども向けの本なども英訳されています。洋書専門店や書店のオンライン販売サイトで購入するのが便利です」
選ぶのが難しければ、日本人作家の英訳が一気に読める作品集もある。例えばアメリカの日本文学研究者ジェイ・ルービンが編者の『The Penguin Book of Japanese Short Stories』には、森鴎外、谷崎潤一郎、夏目漱石といった近代の文豪から、小川洋子、川上未映子、松田青子などの現代作家まで、幅広い内容の短編が収められている。さらに、この本の序文は村上春樹が書いている。
「年代順ではなく『日本と西洋』『男と女』『災厄』といったテーマで分けられているのも面白いです」