「はっきり正確な構文で話せば、専門的な内容もほぼ完璧に訳します。誤訳のほとんどは機械ではなく、母語を話した人に原因があります」(五石社長)

 システムでは自身の発話も画面に表示されるが、「はっきり話すこと」を意識した外国人との会話ではほぼ正確に認識される一方、日本語話者同士で意識せずに会話すると不正確な箇所が目立った。主語の省略も機械翻訳の難敵で、普通に話すと誤訳が起こりやすい。システムをうまく使うには、お互いが母語を正しく話すことを意識しなければならず、「慣れ」が必要だろう。

 前出の山田教授も、機械翻訳の利用に付きまとう「ぎこちなさ」についてこう話す。

「外国語を話せても、異文化とコミュニケーションをとるにはぎこちなさが常にあるものです。それを感じつつも正しく話そうとすることで、言語リテラシーも高まると思います」

 ロゼッタ内での本格導入から1カ月余り。同社の社員も、恩恵は感じているようだ。林琳(リンリン)さんは日本語もほぼ不自由なく使えるが、それでも母語の北京語で話すメリットは大きいという。

「日本語を話すときはいつも、自分が使える文法と語彙の中からどれが適切か選択しながら話しています。でも、日本人社員とも母語で話せるようになり、より会話が自由になりました」

■VR旅行にも導入

 システムは5月にも一般向けにリリース予定だ。まずは日英中の3カ国語対応で、月額定額制(時間・人数によって一部無料)になる。

 使用場面は会議だけに限らない。同社のグループ会社では、オンラインで海外のホストとつなぎ、リアルタイムの映像を見ながら旅行気分を味わう「VR旅行」にもこのシステムを導入している。会社員の井田順子さんは、スペインやフィンランドなどへ「旅行」した。

「身ぶり手ぶりで何とか伝えたり、諦めていたことをすぐに伝えられ、理解できる。不思議な体験でした」(井田さん)

 小学4年生の娘も海外ホストとのやり取りを楽しんでいる。

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