■「白人至上主義はテロ」
4月28日、バイデン氏は国が向かう方針を議会と国民に発信する施政方針演説を上下両院合同会議で行った。メッセージは明快だった。バイデン政権は大規模な財政出動を伴う「大きな政府」を実現する。新型コロナで傷ついた米社会と経済を全面的に支援する。その代わり、ワクチンを国民がさっと打って、急回復を果たそうというものだ。
「就任100日で米国は再び動きだした」と宣言。
「21世紀を勝ち抜くため、中国や他の国々と競争していく」
と述べ、コロナ禍後の急速な成長の道筋を語った。同演説では、歴史的な瞬間もあった。
「最も致命的なテロの脅威は白人至上主義だ」(バイデン氏)
与党民主党側から拍手が起きる。おそらくオバマ元大統領が、最も大統領として発したかった言葉だ。しかし、マイノリティーの黒人としては言えなかった。白人男性のバイデン氏は、それを汲み取ってか、あえて白人至上主義による黒人やアジア系などマイノリティーに対する差別を「テロ」とまで言い切った。
女性や移民に対する差別が吹き荒れたトランプ政権と異なり、人種差別の撤廃やLGBTQ(性的少数者)を保護するための法律にも触れ、多様性を強調した。
バイデン氏は、黒人で女性初のハリス副大統領とは、拳を突き合わせるフィストバンプをした。オバマ元大統領が候補だった08年の大統領選挙集会でミシェル夫人とフィストバンプをした際、保守系メディアのアンカーが「テロリストの練習か」と揶揄(やゆ)したことを思うと、米国も少しずつ前進している。(ジャーナリスト・津山恵子(ニューヨーク))
※AERA 2021年5月17日号