「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。3回にわたり、コロナ禍の旅のルポをお届けする。連載第48回は、ルポの3回目。
※CEO(入国許可証)を取得して渡航。タイはビザとは違うCEOを発行しており、PCR検査や保険、現地での2週間の隔離を受け入れれば渡航許可が出る(2月の出国時の情報)。
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タイのバンコクに到着してから2週間。ようやく後に街に出た。コロナ禍のいま、タイに入国する人は全員、2週間のホテル隔離が課せられるからだ。
かつては月に1回ペースで滞在していた街だが、足どりがぎこちない。首筋を流れる風にびくッとする。刑期を終えて街に出た人も、こういう感覚に陥るのだろうか。
バタバタと仕事をこなす数日がすぎた。帰国である。もう少し長い滞在も考えた。しかしバンコクでの隔離が終わった時点で、すでに2週間。帰国後、日本での隔離もある。タイに1週間滞在するだけで、1カ月近く日本を離れることになってしまう。これがコロナ禍の旅なのだろうが、現地でのんびりする精神的な余裕は生まれない。
帰国に使ったのは、往路同様の日本のLCCであるZIPAIRだった。大型機だが、乗客は4人だけだった。バンコクに向かうときも4人。人は違うのだが。
帰国した3月初旬、日本の水際対策は、滞在した国の変異株感染レベルで分かれていた。タイは変異株がみつかっていなかった。この場合は、飛行機に乗る前にPCR検査を受け、陰性が証明できたら、日本の空港からそのまま自主隔離先に向かうことができた。自主隔離先には自宅も含まれる。移動に公共の交通機関は利用できないが。隔離期間は2週間。
現地でPCR検査を受けない場合は、成田空港近くの東横インで3泊4日の強制隔離が課せられていた。この場合も合計2週間の隔離が課せられていたが、4日目以降の滞在先は限定されておらず、自宅でもホテルでもよかった。
後者を選んだ。感染していても、PCR検査をすり抜けてしまうこともある。成田空港近くのホテルで4日間の隔離をすれば……。日本の隔離スタイルも知りたかった。