期待はずれの「アベノミクス第3弾」で株式市場の不評を買った安倍晋三首相だが、もっと方針表明があいまいだった分野がある。原発政策だ。
もともと首相は国会で「安全が確認された原発は再稼働します」(2月の施政方針演説)と明言していたが、6月5日の講演では、「電力の安定供給を確保する仕事は、並大抵なことではありません。だからこそ、もっとイノベーションを起こさねば」と、再生可能エネルギーへの転換を強調。「再稼働」とも「原発」とも言わず、字面だけ読むと、まるで脱原発に舵を切ったかのようだ。
近く正式にまとまる予定の自民党の参院選公約でも、原発再稼働には直接的に触れず、「中長期的にバランスのとれたエネルギー戦略を構築」と、彼らが批判する民主党顔負けの玉虫色の表現にとどめている。
けれども、それは「方便」に過ぎない。原発立地県選出の同党中堅議員が、余裕しゃくしゃくにうそぶく。
「やっぱり選挙だからね。選挙公約となると、原発であえてそこまで踏み込まなくても、というところがあるんだよ。私の地元だってそうだ。ただ、再稼働は今年中にやってもらわないと困るけどね」
選挙公約や首相講演で表面上は影を潜めた「再稼働」だが、よくよく目を凝らすと、至るところで顔を出している。例えば、首相講演と同じ日に発表された「成長戦略」の素案には、「原子力規制委員会の規制基準に適合した場合は、原発の再稼働を進める」「立地自治体の理解を得るために政府一丸となって最大限取り組む」と、前のめりの表現がしっかり盛り込まれた。
参院選公約の具体策である総合政策集(J‐ファイル)にも、「国が責任を持って再稼働させる」と明記されている。実際、こうした安倍自民党の再稼働方針は、すでに昨年の衆院選の公約や総合政策集から明白だった。
「原子力発電所の再稼働の可否については、順次判断し、すべての原発について3年以内の結論を目指します」
衆院選当時は、あたかも「3年以内に再稼働を判断する」かのような文脈で捉えられていたが、今から振り返れば、明らかに「安全と判断した原発は再稼働しますよ」という宣言だ。
※AERA 2013年6月17日号