稽古場に集まった京都・上七軒の舞妓たち。出身地は東京都、埼玉県、長野県、愛知県(2人)、京都府、沖縄県と幅広い(撮影/矢野誠)
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緊急事態宣言下、人通りが少なくなった昼間の上七軒通り。酒類の提供自粛要請を受け、休業中の飲食店も多い(撮影/矢野誠)

 芸妓や舞妓で知られる京都の花街がコロナ禍の直撃を受けている。だが、お茶屋の女将らは伝統を守ろうと奮闘を続けている。AERA 2021年5月31日号の記事を紹介する。

【写真】緊急事態宣言下、人通りが少なくなった昼間の上七軒通り

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 観測史上最も早い梅雨入りとなった近畿地方。5月17日午前11時、小雨の落ちる花街・上七軒(京都市上京区)の検番に祇園小唄の三味線が響いた。

 この日、未来の芸妓(げいこ)を目指す10代の舞妓(まいこ)、仕込み(舞妓になる前の練習生)たちの舞踊稽古が始まった。稽古場の入り口には消毒用のアルコールが設置され、窓は換気のため開放、全員がマスク姿だ。

 物静かな所作に見える舞妓たちの踊りも、額に浮かぶ汗がその運動量を物語る。

「マスクを着けてのお稽古はもう1年になります」

 そう話すのは師匠の花柳双子さん(40)である。

「外からは目の動きしか見えませんが、どこを見ているか、何を考えながら踊っているのか、かえってわかりやすいこともあるような気もいたしますね。昨年から大きな舞台の中止が続く状況ではありますが、再開できる日に備えて、基本のお稽古はしっかり続けております」

 舞妓たちの出身地は全国各地に及ぶ。この日は沖縄県内の学校を卒業したばかりという「仕込みさん」も短い髪のまま稽古場に姿を見せた。

■デビューの計画立たず

 近年は地元(京都)出身の舞妓志望者は少ない傾向にあるといわれるが、地方出身者も半年から1年も経つと京言葉を覚え、立派な舞妓に成長する。

 平時であれば、舞妓デビューに向けた具体的なスケジュールを立てることができる。だが、長引くコロナ禍においてはそうもいかない。上七軒は長いトンネルに入った状態のまま2回目の夏を迎えようとしている。

 花街を擁する世界的な観光都市・京都がコロナ禍によって受けた打撃はあまりに大きい。

 京都市が毎年発表する「京都観光総合調査」によれば、コロナ禍前の2019年に同市を観光した延べ人数は5352万人(うち外国人886万人)。観光消費総額は1兆2367億円に及び、特に外国人の消費額は日本人の1.85倍と、インバウンド(訪日外国人客)の恩恵は非常に大きかった。

 新型コロナウイルスの影響が3月以降に深刻化した昨年はどうなったか。これについては間もなく正式な数値が発表される予定だが、観光客数、観光消費総額の半減は必至と見られている。年間で数千億円の市場が消失する公算だ。

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