梅雨が明ければ夏本番。ギラギラと強烈な日差しが降り注ぐ。日光に含まれる紫外線は、肌の老化や皮膚がんなどを招く。そのため、絶対悪と見なされがちだが、実はそうとも言い切れない。
東京健康クリニック院長の斎藤糧三医師(加齢制御医学)によると、紫外線に当たった皮膚細胞内で生成される「ビタミンD」は、カルシウムを吸収して骨を作るために欠かせないもので、不足すると骨軟化症や骨粗鬆症、筋力低下のリスクが高まると指摘する。「魚脂や魚卵、きのこ類に多く含まれるが、食事だけで必要量を摂取するのはどうしても困難です」。
ビタミンD不足が考えられる人は、正しい日光浴でビタミンDを補おう。「静岡、名古屋、神戸などから北(北緯35~50度)に住んでいる人は、2~10月にかけ、太陽が真上に来る前後2時間に半そで半ズボンで15~20分程度の日光浴を週に2~3回が適当です」(斎藤医師)。
ただし、これはあくまでも日本人に多い肌質に基づいた目安だ。紫外線の感受性は人によって違い、赤くなったら浴びすぎなので時間を短くするなど工夫する。「肌が弱くて日に当たれない人や、ビタミンDの生成機能が鈍くなっている高齢者は、サプリメントで補いましょう。日光浴以外の時間はきちんと紫外線対策をしてください」(同)。
ところで最近、妊婦や子どものビタミンD不足が問題になっている。大阪市立総合医療センターの依藤(よりふじ)亨医師(小児代謝・内分泌内科)によると、「冬季に胎内にいる初夏生まれの新生児は、夏季に胎内にいる秋生まれに比べて、ビタミンD欠乏症が高い頻度で起きてきます。さらに、ここ10年、季節を問わず新生児のビタミンD欠乏症が増えています」。
依藤医師によると、ビタミンD欠乏症は新生児の少なくとも2割に見られる。「妊婦がビタミンD不足だと、赤ちゃんの骨の生育が十分に行われません。食生活や生活習慣の変化が原因のひとつとして考えられています。妊娠中はシミができやすいので、過度の日焼けは控えたいですが、といって、まったく日に当たらないのも行きすぎです」。
ビタミンDの欠乏が改善されないと、その後に骨が変形・骨折しやすい「くる病」や、けいれんなどの発作を起こす「低カルシウム血症」の恐れが出てくる。これは、母乳育児の割合が増えたことも理由のひとつだと考えられている。
「母乳はとてもいいのですが、母乳だけでは赤ちゃんに必要なビタミンD量に達しません。アメリカやカナダでは、新生児用のビタミンDサプリメントが売られていて、母乳で育てる場合は必ず摂るように指導されている。でも日本では販売されていません。子どもの安全な日光浴についての研究結果はないので、成人より短い時間から始めて、日焼けしないように注意してあげましょう」(依藤医師)
このほかにも、太陽の恵みはたくさんある。「太陽光には、表皮にあるランゲルハンス細胞を通じて、全身の免疫機能を整える働きもあり、喘息やアトピーなどのアレルギー症状が落ち着く。近年、日本で増加している『乾癬(かんせん)』などの皮膚病治療には紫外線照射が用いられています」(順天堂大学浦安病院・皮膚科の須賀康教授)。
寝苦しい熱帯夜の安眠にも一役買う。「日中の日差しに含まれる『ブルーライト』は体内時計を整え、不眠を改善します。高齢者はブルーライトに対する反応が鈍くなっており、若い人の3~4倍必要です。サングラスなどで紫外線をカットしながら、ブルーライトだけを取り入れる工夫を。ただし寝る前のブルーライトは不眠を招くので、画面からブルーライトを発するスマホやパソコン、テレビは、就寝の2時間前までにとどめるのが賢明です」(慶應義塾大学医学部・眼科の坪田一男教授)。
※週刊朝日 2013年6月28日号