ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、田村正和さんについて。
* * *
『眠狂四郎』は知りませんが、『うちの子にかぎって…』や『パパはニュースキャスター』、『ニューヨーク恋物語』などは、いちばん多感な時期に観ていた世代です。これらが放送されていた当時、田村さんは40代。自分の親と同世代だけど、いわゆる「昔のスター」とは違う。かと言ってアイドルやトレンディ俳優でもない。それでも常に真ん中にいた俳優。それが田村正和さんでした。
稀代の二枚目俳優ならではの美しさや独特なキザっぽさの一方で、あの頃の田村正和の最大の武器は、ずばり「中年らしさ」だったと思います。無論、観ていた私が子供だったせいもあるとは思いますが、『うちの子にかぎって…』の先生役、『パパはニュースキャスター』のパパ役、はたまた『ニューヨーク恋物語』のジゴロ役、どれもすべて正真正銘の「中年」でした。あそこまで「中年」然としたスタンスで、若者向けドラマの主役(三枚目)を張れる「二枚目俳優」は、そうそう現れるものではありません。
よく田村正和を「非現実的」と形容する人がいますが、私は田村正和ほど「等身大」の俳優はいないと思っています。例えば『ニューヨーク恋物語』や『古畑任三郎』などに見られる現実離れした存在感を指して「田村正和像」を唱える人は少なくありませんが、それ以上に私が好きだった田村正和は「TBSの田村正和」です。まさに等身大の「中年」。
此度の訃報の中でもほとんど語られていませんが、93年と95年に東芝日曜劇場で放送された『カミさんの悪口』というドラマが特に好きでした。時期的にはフジテレビで『古畑任三郎シリーズ』が始まり、徐々に「後期田村正和像」が固まりつつあった頃。長らく団塊世代の中年期を演じてきた田村さんも50代になり、現役バリバリのサラリーマン役としては最後ぐらいの作品です。篠ひろ子さんとの「中年夫婦の軽妙な掛け合い(夫婦喧嘩)」は抜群に面白く、まるで自分の両親を見ているかのようでした。