ジャーナリストの田原総一朗さんは、参院選を前に「どの党も自民党との差異を怖がっている」と指摘する。

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 安倍晋三首相、そして小泉純一郎元首相の両者を批判するのに「新自由主義」という言葉が決まり文句のように使われている。

どうやら日本では「新自由主義」というのは「悪の権化」のようである。特にインテリを自任する人々が批判の決め手のように使っているのだが、私には極めて違和感がある。 新自由主義は、過度の自由競争を強い、格差を大きくし、弱者を視野の外に置く非人間的な悪しき資本主義だというのである。そして、その象徴的人物として掲げられるのが経済学者の竹中平蔵氏だ。

 近頃は、政府筋でもグローバリズムを否定する「瑞穂の国の資本主義」などという言葉が公然と使われている。新自由主義者たちが主張するグローバリズムは、日本人の民族性、国柄、そして地域の特色、それぞれの事情を無視して日本を崩壊に導く、きわめていびつな自由主義だというのである。

 私は、新自由主義を批判する学者や文化人たちは、本音は自由競争を原則にする自由主義経済=資本主義が嫌いなのではないかと捉えている。かつて、超党派の国会議員たちのシンポジウムで、私が「自由主義社会は、機会の平等、競争の自由が原則だ」と述べたら、個々の能力の格差を考慮して、結果が平等になる社会を構築すべきだと多くの議員から反論された。そこで改めて、この国の政治家たちの多くが「自由競争は嫌なのだ」と強く感じた。

 繰り返し記すが、私は資本主義社会では、均等な機会の下での自由競争は当然であり、こうした考えを基軸にしているのが、いわゆる保守党であって、日本では自由民主党だと捉えている。そして小泉、安倍の両者は、異物どころか、自民党の象徴的な首相である。だからこそ、両首相ともに竹中氏を重用しているのである。

 

 もっとも、自民党とは対照的に、福祉、環境、弱者の立場などを重視する政党も必要である。自民党が小さな政府を目指すのに対して、対立党は国民の面倒見のよい大きな政府を目指すことになる。

 イギリスでいえば労働党、フランスの社会党やドイツの社民党などがこれにあたる。アメリカの場合は民主党だが、保守党に対抗していずれも政権を獲得している。

 ところが、なぜか日本には、政権を獲得できる社民党が登場していない。民主党、日本維新の会、みんなの党、公明党など、いずれも自党を保守党と位置づけしている。私は、はっきり言えば保守党は自民党だけで十分だと考えている。民主党の場合など、自らを保守党と位置づけているために自民党との差異が鮮明にならないのである。それどころか、民主党をはじめ、いずれの党も自民党との差異が生じるのを怖がっているようにさえ思える。

 保守自民党と、社民党、この両党が政権を争うようになれば、立場、そして根本的な政策の差異が明確で、国民にも選択しやすいのだが、なぜかこの国は政権を争うというか、政権を担えそうな社民党が登場していない。残念ながら自民党と、亜流政党ばかりが、争点にもならない些細な差異を争っている。今回の参院選がまさにその典型で、争点らしき争点がない。

 参院選後、敗北した各党は、自らの解党も含め、面倒見のよい大社民党を構築するためのダイナミックな作業に取りかかってもらいたい。

週刊朝日 2013年6月28日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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