もしそれが過重な負担であるなら、労働環境を改善する責任はJR東日本にある。伊是名さんも「階段で車いすを運んでもらうのは危険だし、駅員さんに申し訳ないので本当は避けたい。でも、エレベーターがない以上、お願いせざるを得ない」と話す。
伊是名さんへの非難の声が多いことについて、佐藤さんは「昔の『医療モデル』の考えから抜けられていない人が多いからではないか」と指摘する。
「医療モデルでは、階段を上がれないのは歩けないあなたの責任で、運んでくれと言うことが『わがまま』になってしまう。だが、今は障害のことを考えずにつくられた社会のしくみに問題があるという『障害の社会モデル』の考え方をベースに法律もできています」
石川さんはこう見る。
「平等といえば『形式的平等』と理解している人は、障害特性に合った環境調整をして実質的平等を実現することが不当だと思ってしまうのではないか」
さらに、深い感情的反応も起きていたとも指摘する。
「伊是名さんは女性の障害者であるという点でよりバッシングを受けやすい」
障害者権利条約第6条にも「障害のある女性」という条文があり、複合的な差別を受けやすいとの指摘がある。
伊是名さん自身も今回は、普段リベラルな立場で活動している人からも批判が多かったと話し、「複合マイノリティーの私には、とにかく批判が向けられ、理解されにくい」と声を落とす。
今回、障害のある当事者や家族からも「自分は事前連絡する」「障害者の印象が悪くなる」など批判が起きた。
「健常者の枠に入りたい障害者が増えたように感じる」と話すのは、人工呼吸器を着け、電動車いすで移動する埼玉県の羽富拓成さん(37)だ。
「本当は障害者が降りたい駅で降りるという当たり前の権利が守られないことに怒らないといけないのに。電車に乗るたびに感謝を口にし、『すみません』と言うのは、障害者はお荷物ですと自ら差別されにいっているようなもの。自分で自分の首を絞めている」
今回のバッシングで、困りごとがあっても声を上げないで我慢する障害者は増えるだろう。だが、わきまえているうちに当たり前の権利も移動の自由もどんどん奪われていく現実もある。