鴻巣友季子(こうのす・ゆきこ)/1963年生まれ。翻訳家、文芸評論家。英語圏の現代および古典文学の翻訳、新訳を手掛ける。訳書に、ブロンテ『嵐が丘』、ウルフ『灯台へ』、ミッチェル『風と共に去りぬ』、アトウッド『誓願』、著書に『翻訳ってなんだろう?』ほか多数(撮影/写真部・東川哲也)
鴻巣友季子(こうのす・ゆきこ)/1963年生まれ。翻訳家、文芸評論家。英語圏の現代および古典文学の翻訳、新訳を手掛ける。訳書に、ブロンテ『嵐が丘』、ウルフ『灯台へ』、ミッチェル『風と共に去りぬ』、アトウッド『誓願』、著書に『翻訳ってなんだろう?』ほか多数(撮影/写真部・東川哲也)
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 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

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 6人の文学通が、作品を選び、それぞれの「名場面」について紹介する『名場面で味わう 日本文学60選』。夏目漱石など近代文学を中心に、村上春樹や川上弘美まで、60の名場面が登場する。原文に触れる楽しみと、「この作品の、この場面を選ぶのか」という、小説の勘所が楽しめる一冊だ。著者の鴻巣友季子さんに、同著に込めた思いを聞いた。

*  *  *

 近年、多様なアンソロジーが編まれているが、本書の趣向は一味違う。

 作家・平野啓一郎さんの呼びかけで集まった、阿部公彦、ロバート・キャンベル、鴻巣友季子、田中慎弥、中島京子(掲載順)というメンバーが、自分の好きな作品から「名場面」を選び、掲載したうえで作品について読み解いていく。

 本書の冒頭で、発案者の平野さんは<小説は、様々な要素が複雑に絡み合った芸術である。(略)主題について、くだくだしく解説するのではなく、それを象徴的に表現した場面の連なりこそが、小説の言わば実体である>と書く。

 作家、研究者としても名高い読み手たちは、どの作家の、どの作品から「名場面」を選んだのか。日々、英語と日本語表現にむきあっている翻訳家・文芸評論家の鴻巣友季子さん(57)に話を聞いた。

「場面選びは、ヴィヴィッドに覚えている場面にしたので、迷いませんでした。たとえば河野多惠子さんの『みいら採り猟奇譚』ならば、ラストシーンがショッキングだと思うのですが、私が引用したのは、夫婦ふたりの複雑な関係を裏側に読み取ることができる場面です」

 本書の依頼があったとき、「そもそも翻訳家である私でいいのだろうか?」と、思ったそうだ。

「20代は翻訳修業と勉強のために英米文学を原書でひたすらに読んでいて、本格的に日本文学を読み始めたのは30代になってからだったので。けれど始めてみたら、とても書きやすかった」

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