「左翼のクソども」と発言した復興庁の水野靖久参事官の処分が決定した。自身もネット上で「左翼」や「在日」と書き込まれているという作家の室井佑月氏は、右翼か左翼かの二元論で物事をとらえる日本の現状に苦言を呈する。

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 6月14日付の東京新聞に、「役所に盾突く人=左翼」という見出しの記事が載っていた。

 原発事故の被災者支援を担当する復興庁の水野靖久参事官は、「どうする? 放射線による健康被害への対応」という集会に国側の説明者として出席し、終わった後、個人のツイッターに、「左翼のクソどもから、ひたすら罵声を浴びせられる集会に出席」と書き込んだ。

 実際は、水野氏が罵声を浴びせられることはなかったという。けど、そこはどうでもいい。罵声があがったとしても、当たり前だしな。その理由については最後に書く。

 問題なのは、国と違う意見をいう人が左翼と決めつけられること。放射線の健康被害を心配したら、左翼なの? すげぇな。国民はみんな、右か左に分かれてるってか。

 あたしもネットなどで、左翼または在日だと書き込まれている。自分の名前で検索してみると、在日という言葉がすぐ出てくるぐらいだ。なんでも小説で在日の女性の話を書いたことがあるから「認定」なのだそうだ。

 あの~、コラムと小説の違いって知ってます? あたしが日本人であることは調べりゃすぐわかるし(大事なのはそこじゃないと思うし)、右とか左とか、これまで生きてきて考えたこともない。

(くだらないなぁ)

 そう思ってずっと放置していた。しかし、無視していたらヤバいことなのかも。だって、それらの言葉はごく一部の人たちにとって最高の悪口で、その言葉を使うことで仲間内でやたらと盛り上がる。少数だが、声がデカい。それを許していたら、この国の穏やかな人たちは、レッテルを貼られるのが厭(いや)で自分の意見をいえなくなる。

 すぐに消されたが、安倍首相もフェイスブックに、「(街頭演説の)聴衆の中に左翼の人達が入って来ていて」などと書いたらしい。

 街頭演説を野次った人たちの中には、TPP反対の人も消費税増税反対の人も原発反対の人もいただろう。狙いがあっての発言か、それともわかっていないのか。どっちにしろ怖いことだ。

 最後に、国の集会で罵声があがるのも仕方ないって話。国側はうちら国民の意見を聞いてるようで、聞いちゃいない。聞く気もない。国民との話し合いの場を作ったという事実が必要なだけ。ネットに出回っている「第38回全国公害被害者総行動デー」の様子をごらんください。これを観れば、原発事故後、ほんとうに起きていることがわかるから。

 そうそう、昨年6月に成立した「子ども・被災者支援法」の担当だった水野氏は、基本方針の策定が1年間放置されていることについて、「白黒つけずに曖昧なままにしておく」と、堂々とツイッターに書いていた。

週刊朝日 2013年7月5日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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