■今はシステム機能せず

──よく言われる「菅に菅なし」ということでしょうか?

 官房長官時代の菅義偉氏という個人が機能していたのではなく、菅官房長官というシステムが機能していたのです。ただ、菅さんがリーダーの立場になった途端、機能しなくなった。現在の司令塔不在の元凶は、菅さんという個人の問題ではなく、個人を取りまくチーム、システムの問題だと理解しています。総理のリーダーシップを機能させるシステムがないのです。

──菅首相は答えに窮すると、「仮定の質問には答えられない」を連発します。それでは国民は何も分からないままです。

仮定の質問には答えられないと言いたくなる気持ちは分かる。戦っている相手がコロナウイルスなので、この先どうなるかなんて誰も分からない。「最悪どうなるんですか?」と聞かれても、最悪の定義が難しいし、答えようがない。

ただ、間違いなく言えるのは、緊急時こそ「ファクトは全部公開する」の一点で勝負するしかない。政権が「ファクトを隠しているんじゃないか?」と国民に疑われれば、危機の対応はやりにくい。加えて「ファクト自体も示さない」となれば不信が募るに決まっている。そもそも安倍第2次政権以降、公文書を改ざん、隠蔽(いんぺい)する体質であることは国民に見透かされています。

──非常時だからこそ、都合の悪いことはなるべく出さなくなるのではないでしょうか?

 東日本大震災の経験からも、情報公開を徹底したほうが政権は楽だと思います。例えば当時、使用済み核燃料が保管されていた(東京電力福島第一原発の)4号機が冷却機能を失って、放置すると大問題になる出来事がありました。あのとき、出せる情報は全部包み隠さず出したのです。すると全国から情報が集まり、あの50メートルのアームの先から直接、水をプールに注水するというコンクリートポンプ車「通称キリン」が大活躍しました。これは情報公開したからこそでした。

 ファクトを一部の限られた専門家にだけ知らせるのではなく、徹底して情報公開することで幅広い知見が得られる。だからワクチン接種でも、こういうプロセスで進めるという計画を案の段階から示しておけば、各自治体からも様々な提案が出るはずです。緊急時においては情報公開を積極的にすることが、結果として楽なのです。

(構成/編集部・中原一歩)

AERA 2021年6月14日号より抜粋

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