しかし、そんなアデュカヌマブにも、懸念されることがないわけでもない。河合薬剤師が解説する。

「アデュカヌマブは、第1相試験(フェーズ1=ヒトでの試験の導入段階)で、非常に高い効果が期待されるという論文が学術誌に掲載されました。しかしその後、第3相試験(フェーズ3=臨床試験の最終段階)で、『主要評価項目達成の可能性が低い』との判断から、試験そのものが中止になった。その後、被験者の数を増やして再度解析することで現状までこぎ着けたのですが、一度中止になった試験が再び始まるというのはきわめて例外的なことで、ここに懐疑的な印象を持つ研究者もいます」

 認知機能の低下を抑制する効果判定では、プラセボ群に対してアデュカヌマブによる進行抑制効果が見られたのは23%。この数字に不安を覚える向きもあるという。

 人間の脳には、異常な物質の血液を介した流入を防ぐバリア(B BB=脳関門)がある。薬効成分が脳関門を通過して脳に達する必要があるのだが、静脈に点滴投与するアデュカヌマブは、その透過性に関するデータがないことも不安材料だ。

■高額な薬価で1回の投与に100万円以上

 そして、何より重大な問題として懸念されるのが、高額な薬価が予想される点だ。現状では1回の投与にかかる金額が100万円をはるかに超える可能性があり、毎月1回投与し続けると、効果があったとしても、恩恵に浴せる人はほんの一握りになってしまう。

「国民皆保険の日本では、健康保険で承認するかという問題があるので、そこは費用対効果で考える必要がある。場合によっては既存薬を健康保険の適用から外し、病気の進行を止める可能性のある新薬にお金をかける(保険適用とする)ことで、国民の健康長寿という国全体のメリットに寄与する、という考え方もできる。ただ、社会保障費に与える影響が決して小さくないことも事実であり、慎重な判断が求められる」と新井医師。

 もう一つ、アデュカヌマブの問題点として挙げられるのが、投薬開始時期の判定の難しさだ。既存薬と違ってアデュカヌマブは、認知機能の低下が始まる以前から使用することで薬理効果を発揮する。そもそもアルツハイマー型認知症の第一歩である「アミロイドβタンパクの蓄積」が始まるのは、認知機能低下という症状が始まるより20年以上も前のこと。脳萎縮が始まるMCIの段階でさえ自覚症状を頼っての病気発見は困難とされており、アデュカヌマブを使うべき「MCI以前」の判定は難しい。そこで新井医師が提唱するのが、新しい脳の検査法による研究成果の応用だ。

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アデュカヌマブが起爆剤となり新薬開発が活発化