表題作の「男の子になりたかった女の子になりたかった女の子」は、「i−D Japan no.6 フィメール・ゲイズ号」に掲載されたものだ。

「この社会は男性の目線が“普通”として日常化しているじゃないですか。それを女性目線で語り直すっていう特集でした。自分も男性社会を生きてきてしまったので、それをもう1回自分で取り戻す話にしようと思ったんです」

 日本という国に女の子として生まれ、そして生きていくうち、いつの間にか他人の期待を押し付けられる不快さ、しんどさ、理不尽さが毒となって体を蝕む。書かれている内容は松田さん自身が経験したことがほとんどだというが、女性として生きてきた人ならこの小説に書かれている場面、感情に一度も出合わなかった人などいないはずだ。

「『許さない日』も、この『男の子…』もそうなんですけど、自分が経験したことの膿をちゃんと出さないといけない時があるっていうことですね。見つけ次第ひとつひとつ潰していくしかないんです」

 小説は非常に力強い言葉で締め括られる。それは多くの“女の子”たちの希望となるだろう。しかし、もし今希望が持てないとしても、本書の見せてくれたゆるいつながりのように、いつか思わぬところで実を結ぶこともあるかもしれない。そう思えることもまた本書の希望なのだろう。(ライター・濱野奈美子)

AERA 2021年6月14日号

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