AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
『おばちゃんたちのいるところ』が世界中で支持されている松田青子さんが、『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』を刊行した。現代社会に息苦しさを感じている人々に贈る最新短編集だ。17歳の誕生日にもらったメロディーカードを通じて昔の知人の想念とつながる「天使と電子」、派遣会社のクレぺリン検査を受けた3人の女性のそれぞれの顛末を描いた「クレぺリン検査はクレぺリン検査の夢を見る」、ブルマへの恨みを綴る「許さない日」などの11編。松田さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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近年、海外にも広く読者を持つ松田青子さん(41)の新刊は、2014年から21年までにさまざまな媒体に発表した作品が収録された短編集。コロナ禍で子どもを連れて逃げた母親、常に真っ赤なアイシャドウをつけている中年女性、いつまでも“身を固めない”娘……時にスリリングに、時にファンタジックに、主人公たちは日常を生き延びていく。
「それぞれ依頼に応じて書いたものなので書いている時は他の作品のことは考えていなかったんですけど、まとめて読んでみるとやっぱり自分はやりたいことが変わらないんだと再確認しました。裏テーマというか、共通するところがありました」
その裏テーマを説明するために使った言葉は「わたしたちは、会ったことはなくとも、つながっている」。これは収録作「許さない日」に出てくるフレーズだ。作品の中では、“同じ経験をした私たちは同じ感情を共有している”というような意味で使われているが、他の作品では、たとえ共通の経験や感情がなくとも私たちはつながることができることが示されている。
「助けてくれる人がいなくても、相談できる人がいなくても、この社会で生きている限り私たちはゆるくつながっている。それは希望なんじゃないかとうっすらずっと思っていたんですね。女性同士の友情って『セックス・アンド・ザ・シティ』みたいに結びつきの強い状態を思い浮かべるかもしれませんが、そうではない形のグラデーションのようなものを意識していました」