欲しいものがあるとき、「アマゾン」のページを開き、クリックすると、当日か翌日にはもう手元に商品が届く。
次第に、商品が本当に欲しいのか、衝動買いしているのかもわからなくなり──。ネット上の辞書「はてなキーワード」には「amazon病」の項目がある。「『アマゾン病』『アマゾン依存症』『アマゾン中毒』とも。ネット書店amazonで本を衝動買いしてしまう、という困った習慣をさす」とある。
ネット通販界の雄「アマゾン」では現在、書籍に限らず食品や衣料品まで買えるようになった。アマゾン依存は確実に広がっていると見ていいだろう。
冒頭は、恥ずかしながら記者(34)自身の話。まごうことなきアマゾン依存だ。あえて金額は伏せるが、これまでいくら払ったかすら、定かではない。
なぜ人は、ここまでアマゾンに引きつけられるのか。その理由のひとつに「おすすめの罠」があるのではないだろうか。
アマゾンで商品を注文すると、「◇を買った人は、こんな商品も買っています」との表示が出る。ファストフード店の「ポテトも一緒にいかがでしょうか」と同じ。デジタルカメラなら写真データ保存用のSDカード、ビタミンCのサプリなら他のサプリといった具合だ。
確かに、デジカメを買っても記録媒体がなければ意味がない。でも、ビタミンCは、それ自体で完結している。だから、前者は購入の可否を考慮するが、後者は無視する。この判断が正しいのだろう。ただ、ひとたびアマゾン依存にかかると、これができない。
酒に酔ったとき判断がつかなくなる状態を「酔いどれアマゾン」と名付けたのは、お笑いコンビ「麒麟」の川島明さん(34)だ。圧力鍋を注文し、「おすすめ」されるがままに購入を進めていくと、最後には加圧トレーニング用のチューブを薦められていたと「アメトーーク!」(テレビ朝日系)で明かした。記者もしらふのとき、カップみそ汁を買おうとして、最終的にはカップの「たまごスープ」まで買ったことがある。このカラクリを『二重洗脳─依存症の謎を解く』の著書がある磯村毅医師は、こう説明する。
「間欠的強化という現象です」
ある行為が強化される、ハマるのは、アタリとハズレが混在する状態だという。
たとえば競馬。多くは予想が外れるが、たまに的中する。いつかアタルからこそ、馬券を買い続ける。的中してばかりではつまらないし、ハズレてばかりではやめる。磯村さんは、アマゾンの「おすすめ」にも同じことが言えると指摘する。
「注文時に『これも一緒に』とすすめられた商品は、実際手に入ると、買わなければよかったと思う商品が多い。でも、買ってよかったと思う商品も時々はあるからやめられない」
たしかに、ついで買いのたまごスープはうまかった…。
※AERA 2013年7月1日号