※写真はイメージです (GettyImages)
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 ライター・永江朗氏の「ベスト・レコメンド」。今回は、モナ・アワド著、加藤有佳織、日野原慶訳『ファットガールをめぐる13の物語』(書肆侃侃房、1980円・税込み)を取り上げる。

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 容姿による差別をルッキズムという。それが良くないことだとは、誰もが知っている。だが、なくならない。人種差別や障害者差別に比べると“たいしたことない”と思われているのだろうか。からかわれたりバカにされたりして傷ついている人に「深刻に受けとめないで。冗談なんだから」などと“助言”する人もいる。容姿の悩みは本人しか分からないのに。

 モナ・アワドの『ファットガールをめぐる13の物語』は、体型に悩む女性の半生を描く小説。タイトルのとおり、13編からなる短編小説集のようにも、13章の長編小説のようにも読める。

 主人公のエリザベスは太っている。男たちが自分の身体をどう見ているかも知っている。好奇の入り交じった性的な眼差しが向けられていることを。

 だが、エリザベスを傷つけるのは男たちだけではない。同性の視線も痛い。太っていない女は、彼女をどこか見下している。エリザベスより太っていないというだけで、まるで勝ち誇っているよう。痩せた人しか着られないファッションも残酷だ。

 物語の後半、エリザベスは痩せる。ダイエットに成功したのだ。痩せた娘を見て、男たちだけでなく、母親さえもが態度を変える。しかし、上機嫌で娘を自慢する母親に、エリザベスは深く傷つく。痩せても容姿についての悩みは消えない。痩せたからといって、幸福になれるわけではない。

 なーんて、こんなふうに紹介すると、深刻な社会派小説だと思う人も多いかもしれないけど、文章はかなりポップ。ロックやファッションの固有名詞もたくさん出てきて、ネットで検索しながら読むとすごく楽しい。最高のフェミニズム小説だ。

週刊朝日  2021年6月18日号