福山市がイエナプラン教育に取り組むことになったのは、16年に「変化の激しい社会をたくましく生きる子どもを育てる」ことを目指して始まった教育改革「福山100NEN教育」がきっかけだ。同市教育委員会の三好雅章教育長は、二つの問題意識があったと説明する。
「一つは子どもが楽しそうでなかったこと。これまでの教育は、一つの価値観やゴールを大人が示し、『子どもの意見を引き出す』などと言いつつも大人がイメージした道筋に沿って授業や行事が行われてきました。その結果、学校では指示されたことに一生懸命取り組む子どもの姿は見られたけれど、自分たちで考え、楽しそうに熱中するエネルギーを感じることが少なかったです」
二つ目が「理解度」への危機感。こんな例題がわかりやすい。
「子どもが10人、1れつにならんでいます。ことねさんの前に3人います。ことねさんの後ろには、何人いますか」
1年間授業を受けた1年生のほとんどが、この問題文を読むことができる。そして、同じように10-3=7のような計算もできる。それでも、この問題を解けない子が大勢いる。
「小学校の先生はそれぞれの単元を、繰り返し、丁寧に教えています。単元ごとに見るとほとんどの子が理解しているように思えます。それでも、文章題になると式を立てられず、答えが出せない。教科をベースにしたスモールステップではなかなか本当の理解につながらないんです」
個々人で、学ぶスピードや理解度が全く異なる現状もある。福山市では16年、市内二つの小学校の1年生を1年間観察し、国語と算数の授業を動画に記録しながら言葉や数の習得過程を調査した。入学時点で言葉の習得状況や語彙(ごい)はどうか、1年間学び、それがどう変化していくか。その過程を研究したという。
「学びのペースや習得過程はその子それぞれだと改めてわかりました。学年や教科を超えた取り組みが必要だと痛感しました」(三好教育長)