『鬼滅の刃』では、鬼の被害者・竈門兄妹のもとに、鬼殺隊「柱」の冨岡義勇が現れて、そこから「鬼狩りの物語」が始まる。義勇は、竈門兄妹を救い、彼らが「日常に帰る」ことができるように力を尽くす。そして、ラストシーン、義勇は竈門兄妹を救うため、他の隊士にはできない、ある「決断」を迫られる。義勇の剣士としての能力、判断力、そして彼の内面をふり返ることで、なぜ彼が竈門兄妹の「生」を救えたのかを考察する。【※ネタバレ注意】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。
■冨岡義勇と炭治郎との不思議な縁
『鬼滅の刃』の物語は、主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)の一家が鬼に殺害される場面からはじまる。生き残った妹・禰豆子(ねずこ)は、鬼化の影響によって飢餓状態になり、兄の炭治郎に襲いかかってしまった。
その現場に、鬼狩り集団「鬼殺隊」の実力者で、「水柱」と呼ばれる冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)が駆けつけた。竈門兄妹がはじめて出会った鬼狩りが義勇であったことは、彼らにとって運命的な巡り合わせになった。本来、鬼と遭遇した鬼殺隊隊士は、鬼の首を直ちに斬る。しかし、義勇は、禰豆子を斬ろうとする素ぶりは見せるものの、炭治郎に状況を説明し、彼らに生き抜く方法を教えようとした。
■冨岡義勇の「柱」としての才覚
<笑止千万!! 弱者には何の権利も選択肢もない 悉く(ことごとく)力で強者にねじ伏せられるのみ!!>(冨岡義勇/1巻・第1話「残酷」)
口調こそ厳しいものの、義勇は竈門兄妹を救う方法を考え、的確な指示を炭治郎に与えた。この場面は、コミックス1巻・第1話の出来事。つまり物語冒頭ですでに、義勇の「思考」が明確に見てとれる。
何とか救える命はないのか――これが義勇の行動理念のひとつであることは間違いない。優しい心を失わないままに戦う義勇が、厳しい戦場で生き残ることができているのは、ひとえに義勇が優れた状況判断能力を有する、才能に突出した剣士だからだ。冨岡義勇は厳しい戦闘下にあっても、人としての矜持や信念を決して失わない。