一口に「仕事」と言っても、その実情はさまざまだ。資格やある程度の知識などが必要な仕事がある一方で、経験・学歴が一切不問のものもある。もし今すぐ働ける職場を探しているのなら、今回紹介する書籍『潜入ルポ 経験学歴不問の職場で働いてみた』(鉄人社)をぜひ手に取ってみてほしい。著者の野村竜二氏による潜入記録を通して、世の中に溢れる怪しげな仕事のリアルが見えるだろう。
職探しの代表的なツールといえば求人サイトやアプリが挙げられるが、ネット以外にも仕事を見つける方法はある。神奈川県横浜市の寿町で求人情報を探し歩いていた野村氏は、土木作業員を募集する張り紙を見つけた。「経験や道具がないと厳しい」と断られながらも電話をかけ続けると、ある会社から住み込みで働く職場を紹介してもらえることに。仕事内容は知らされないまま、翌日早朝からの出勤が決まった。
指定された場所から白いバンに乗り込むと、そのまま寮に向かう。運転手である白髪の男性は会社で採用や寮の管理を担当しているらしく、野村氏が当日の仕事内容を尋ねるも「わからない」との回答が。職場があるエリアも不明なまま、神奈川県内の寮に到着した。寮内にある事務所の職員から軽い面接を受けた際に、給料について尋ねてみる。職員曰く経験者は日当9500円、未経験者は9000円からのスタートだそうだ。
「さらに、ここから寮費が1900円、3食のメシ代が1400円引かれる。なので1日で稼げるのは5千700円ぽっちだ。寮費と食費がかなりお高いような」(同書より)
前借りも可能だが、入社後10日間は3000円までとの決まりもある。野村氏は少々不満を覚えながらも、作業着に着替え集合場所へ向かった。指定されたワンボックスカーに20分ほど乗り、現場に到着。作業チームの班長に仕事内容を尋ねると、
「ああ、野村君は初めてだもんね。ここは産業廃棄物の中間処理場って言って、業者から持ち込まれたゴミを仕分ける場所なの。その中から売れそうな物を取り出すのがうちの仕事だよ」(同書より)
と教えられた。クレーン車が運ぶゴミ袋の中身を手作業で確認し、素材ごとに周囲のコンテナへ分けるのが主な作業内容だ。
「コンテナごとにコンクリ、木片、段ボールなどに分かれている。思っていたより分別が細かいようだ。
中でも汚れた廃プラスチックとキレイなプラスチックの見分けは入社初日の俺じゃ難しい。汚いってどの程度だよ! ってイライラしてくる」(同書より)
産業廃棄物を扱う現場のため、扱われるのは建築資材などが中心だ。しかしなかには飲食物のゴミやタバコの吸い殻などもあり、キツいニオイが漂う。新人ゆえ作業スピードが遅くなると先輩から厳しい言葉を浴び、作業に集中すればクレーンに接触しかけてヒヤリ。現場では以前、安全靴を貫通した釘が足に刺さり破傷風になる事例もあったとのことだ。怪我のリスクはもちろんある。適宜休憩を挟みながらではあるが、気温30度超えの環境での作業は野村氏曰く「地獄」。
「場内にはゴミが出す粉塵の対策として、常に大量のミストが噴出している。これが湿度を上げるので余計に蒸し暑い。滝のように汗がダラダラと流れてきて、冗談抜きに熱中症でぶっ倒れそうだ」(同書より)
終業時刻が迫る頃には、疲労もピークを迎える。
常に中腰でゴミを仕分けるので腰が痛い。しかも全身泥だらけのグチョグチョで作業着も重たい。ここにきて粉塵の影響でノドまで痛くなってきたし。満身創痍とはまさにこのことだ。なんだか惨めな気分になってきた。早く終わってくれることを願いながら、5分に1度のペースで時計を確認する。もう、帰りたい。早く時間が進んでほしい。
作業終了後は荷物をまとめて逃げようと考えていた野村氏だったが、疲れのせいかそのまま熟睡。結局翌日も出勤し、2日間分の前借り6000円だけを手にして寮から脱走した。
本書ではほかにも、普段日の目を浴びることは少ない職場での体験記がたくさん綴られている。仕事内容だけでなく、そこで働く人々との会話や実際の風景写真なども満載だ。また後半では、一般の人から寄せられた「稼げる仕事」の情報も紹介。キャバクラのキッチン業務から私立大学の警備員、遠洋マグロ漁船員まで、あらゆる種類の職場の様子を給料額とともにまとめている。めずらしい仕事に興味があるならもちろん、働き口がなくなり困った場合にも参考になりそうな一冊ではないだろうか。