
新型コロナウイルスの感染拡大が収まらないまま東京五輪が開かれようとしている中、インターネット署名サイトで新たに中止を求めるキャンペーンが立ち上がった。呼びかけ人には作家や学者ら14人が名を連ね、賛同者は開始から5日で5万人を超えた。呼びかけの中心となった元外交官の飯村豊さん(74)と社会学者の上野千鶴子さん(73)がオンラインで対談した。AERA 2021年7月19日号から。
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──いま、声を上げた思いを。
飯村:1年延期が決まる前から、五輪とコロナ対策は両立しないと思っていました。当時の政権は1年後には状況がよくなると根拠のない見通しを立ててここまできたけれど、状況はよくなっていません。ワクチン接種率が上がらない、様々な変異株が出てきている、感染がまた拡大している。本当にこの状況で強行するのか。今だからこそ、声を上げなければならない。上野先生が五輪への懸念を発言されているのを拝見して、同じ気持ちの方がいると連絡しました。実はそれまで面識はなくて、画面越しですが、お目にかかるのも今日が初めてです。
上野:ご連絡いただいたときは驚きましたけれど、元外交官で公務員でもある飯村さんがここまでおっしゃるには、相当な思いがおありなんだろうとすぐに賛同しました。客観的に言って、これで強行開催を覆せるかは未知数です。それでも声を上げるのは、市民の間のモヤモヤ感や不満、怒りを「見える化」することが大切だからで、飯村さんには表現の場を与えていただきました。
飯村:5月から始まった五輪中止を求める別の署名が40万筆以上集めていますし、デモなどで行動している人も、千駄ケ谷のスタジアム前で一人で五輪反対のプラカードを持って立っている高校生もいます。国民の気持ちを表明する場がもっとたくさんあって、あちこちから声が上がるほうがいいと感じています。
上野:私は長く市民運動にかかわってきましたが、こうした運動は一つに統一しなくていいんです。いろいろなところでいろんな人が思い思いにアクションすることで、大きな泡も小さな泡も集まって一つのウェーブになる。その蓄積が大事だし、次にもつながっていきます。