地震では、11年の東日本大震災で津波以外に最も大きな被害を受けたのは、傾斜地に盛り土で造成された宅地だった。

 先の太田さんは、今回の熱海市の崩壊は「映像で見る限り、かなり高い水圧がかかっていたはずだ」という。注目するのが、土石流が発生した起点のさらに上にある「山」だ。

「山から地下水が盛り土内に流れ込んできていたはずです。通常、盛り土内には地下水を排水するための『暗渠(あんきょ)』と呼ばれる排水管を通さなければいけません。崩壊した場所は『宅地造成工事規制区域』になっていて、通常であれば暗渠はつくられていたと思います」

■排水能力劣化の恐れ

 だが、暗渠に土がつまるなどして機能していない場合も少なくない。

「そうなると、排水能力は劣化し、高い水圧が盛り土内にかかります。今回のような大規模崩壊は、そうした要因がいくつも重なったのではないかと考えられます」(太田さん)

 危険な盛り土は、どこに、何カ所あるのか。

 これまで盛り土がある場所は、宅地評価額を変動させ混乱を招くとして、未公表だった。だが、造成地での地滑りや地割れが相次ぐため、国土交通省は20年3月末、宅地として造成した大規模な盛り土は全国に5万1306カ所あることを初めて公表した。最も多いのは神奈川県で約6300カ所、続いて福岡県(約5千カ所)、大阪府(約3700カ所)と続く。

 この国の公表を受け、全国の自治体も「大規模盛土造成地マップ」をホームページで公開した。マップでは、谷を盛り土で埋めた面積が3千平方メートル以上の造成地と、角度が20度以上の斜面に5メートル以上の盛り土をした造成地の範囲を地図上で示し、一目でわかるようになっている。

■危険度評価はこれから

 ただ、同マップでは、各盛り土の危険度までは把握できない。

 九州大学大学院の笠間清伸(きよのぶ)准教授(防災地盤工学)は、言う。

「マップ公表までの作業は『第1次スクリーニング』と呼ばれ、どこが大規模盛り土に該当するかを示しているだけです。この1段階目のデータをもとに、今度は各自治体で崩落の恐れがある場所を割り出す『第2次スクリーニング』を行い、公表されていくことになります」

 ただ、盛り土に潜むリスクを知っておくだけでも、防災の第一歩になる。笠間准教授はこう助言をする。

「マップで示された盛り土部分に住宅がある人や近くに住んでいる人は、盛り土の境界部付近の地表に亀裂や湧水(ゆうすい)など異常がないかなどを点検すれば、備えになります。また、危険度を判定してくれる会社に診断してもらうと安心だと思います」

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