ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、大谷翔平について。
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私は大谷翔平さんが好きです。「どうして大谷翔平が好きなのか?」と訊かれても、私にはちゃんとした答えを述べる自信がありません。もちろん野球を観るのは昔から好きですが、そこに大谷翔平が介在した瞬間、野球どころではなくなってしまうのです。46歳にもなってお見苦しい話ではありますが、誰かに熱狂するというのは「焦点が合わなくなる」ことなのだと改めて実感している今日この頃です。
大谷君を観ていると、得も言われぬ焦燥感に駆られます。「今日の大谷翔平は、明日になったらもう見られない」。どこか諦めや喪失にも似た感覚は、かつて必死になって観ていたアイドルに抱いていたそれと同じものです。今は録画・再生・巻き戻しが自由自在な時代になり、誰もが自分のペースで消費ができますが、昔はもっと「一発勝負」でした。よそ見をしている間に通り過ぎてしまう儚さと尊さ。大谷翔平はそんな「アイドル」の真髄を見せつけてくれているのです。
今シーズンの大活躍もさることながら、それ以上に彼の性(さが)が日に日に熟成と解放されていく様がとにかく凄い。以前から、たまに表出する冷酷な目つきやオラオラな姿態には気づいていましたが、無論それは勝負事に命を懸けている男の闘志の賜物であり、柔和で謙虚な好青年というイメージとのコントラスト故の目立ち方に過ぎませんでした。
しかし大リーグデビューを果たした2018年以降、その性(さが)はゆっくりと本領を発揮し始めます。投手としてメジャー4勝目を挙げたレイズ戦でのこと。ホームランを浴びるも1失点で抑えベンチに戻る際、彼は同僚たちに人差し指を向け「You see?(見ただろ?)」というポーズを決めたのです。シャッターチャンスとは撮られる側が与えるもの。大谷翔平が持つ性来のアイドル力を確信した瞬間でした。