あれから3年。肘の手術やコロナ禍といった障壁を経て迎えた今シーズン。5月4日に飛び出した第9号ホームラン。高く放物線を描いてゆく打球を一点に見つめながら、彼は右手に持ったバットをふてぶてしく脇に放り捨てたのです。大谷翔平がアメリカで初めて見せた本気のドヤりでした。これでもう何も容赦する必要はなくなりました。

 さらに目が離せないのは、彼の表情筋や体の使い方がどんどんアメリカナイズされていること。特に不満や不調を表すジェスチャリングは傑出で、日本人留学生がネイティブなノリにかぶれてきた頃によく見られる行動パターンを思い起こさせてくれます。日本人にとって、「人格の西洋化」を目指す際に最大の壁となるのは「感情表現における照れ」です。「オーマイガー!」「アンビリーバブル!」などに代表される全身を使った伝達は、よほど自分のアイデンティティを麻痺させ、あちら側に身を任せないとできません。

 審判の判定に納得できず、マウンド上で「オー! ノー! メーン!」とばかりに大げさな身振りと、絶妙な「西洋風不満顔」をしてみせる姿に、多くの日本人がドギマギしたはず。でもそれは彼自身がプロデュースする本当の「ショータイム」の幕開けなのかもしれません。とりあえず全部ひっくるめて可愛くて仕方ない。

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

週刊朝日  2021年7月16日号

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