
でも一番の理由はアンヌに強烈に惹かれたからです。アンヌは自由を希求し、それを阻止するものであればどんなことがあっても闘います。愛されることを求めるのではなく“自分自身”であることに重きを置いている。それはまさに私が人生で実践していることです。
映画化に際し、アニー・エルノー本人に会うことができました。彼女は本の内容を忠実に私に解説してくれましたが、中絶のシーンになると目に涙を浮かべました。80歳を超えてもなお、その闘いと経験がどれだけの苦しみとして彼女のなかに生き続けているのかを目の当たりにしました。そんな思いを映像化できるのかとプレッシャーも感じましたが、試写を観て「とても的確だわ」と言ってもらえて心底ホッとしました(笑)。

映画を観た多くの男性に「こんなに身体的に動転したのは初めてだ」と言われてうれしかったです。多くの観客が性別や年齢の区別なく、一人の若い女性=アンヌの体のなかに入り込み、その痛みを体験してくれたのです。それこそが映画の力なのだと思います。(取材/文・中村千晶)
※AERA 2022年12月5日号