では、この政府提案についてどう改善していけばよいのか、二つの方向性が考えられます。


 一つは、今からでも規制対象を宗教法人にしぼり、その上で立法事実(規制の根拠となる社会的事実)があるマインドコントロール規制を入れることです。今回の政府提案では、霊感を用いた不安のあおり・つけこみ行為が規制されていますが、もっと広く「自由な意思決定を著しく困難にする状況を作り出したり、利用したりする行為」を規制することが考えられます。ただ率直に言って、今国会、寄付を一律に規制する法律でマインドコントロール規制を入れるのは難しいでしょう。寄付で活動を賄う社会的団体は他にたくさんあるのに、ヒアリングや実態把握すらなく、突然、宗教法人と並べてマインドコントロール規制を及ぼすのは、とばっちりによる社会的影響が大きすぎます。


 もう一つの方向は、政府提案の寄付規制新法をベースに、少しでも他団体に火の粉がかかることを避けつつ、今起きている宗教法人の具体的問題を解決できるような要件に改善することです。たとえば寄付の勧誘の際に禁止される行為の中の、「当該不利益(編集部注・「霊感商法」で使われる「先祖の因縁」など)を回避するためには寄付をすることが必要不可欠であることを告げる」という要件を「当該不利益を回避するためと称して寄付を要求すること」と広げることで救済の実効性を高めることが考えられます。また、借金や住まいの売却による寄付要求の禁止が入っていますが、生命保険金や経営店舗の売却などに対象を広げるとともに、「ほのめかし」や「見て見ぬふり」が抜け道にならないよう、団体側が要求せずとも勧誘したり知っていた場合なども規制対象に入れることも一案です。また、信者の家族による寄付の取り消し権行使については、債権者代位権制度の実効性をもう一度検証した上で、保全されるべき子どもの養育のための必要経費として「何歳までいくら」必要だと算定されるのか基準を詰め、宗教2世の十分な救済可能性を確保することが重要です。


 おそらく今の政治状況では、後者の方向性でセカンドベストを追求していくことになるのでしょう。その場合、宿題となるマインドコントロール規制がお蔵入りにならないように、中長期的なカルト対策の検討会をつくり本質的な問題解決に迫る体制づくりが不可欠です。そもそも30年来政治が放置してきた旧統一教会問題を、臨時国会の3カ月で解決しようというのは余りに乱暴なのであって、腰を据えた取り組みが求められています。

週刊朝日  2022年12月9日号

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