
辻村:もどかしかったですか。
加藤:正直、もどかしかったです。ちゃんと伝えてくれずにああいうことをされると、男は本当につらい!(笑)
辻村:女子の「言わなくても気づいてほしい」と男子の「言ってよ!」のすれ違いですよね。婚活に限らず、誰かを選んだり、誰かと誰かを比べる行為ってしんどいなと思うんです。今回、文庫化にあたって、巻末解説を朝井リョウさんにお願いしたんですね。そうしたらその解説が絶妙で、「解説を誰に書いてもらうか選ぶのは難しい」というような話から始まるんです。たとえば、カズオ・イシグロには頼めない、とか。
加藤:高望みするなってことですね(笑)。
■相手を選ぶ解像度
辻村:断られるのが分かっていますよね。そこから、これは相手を選ぶことの解像度を高めた小説だ、ということを書いてくださったんですけれど、小説で選ぶ難しさを書いている作家も、誰に解説を書いてもらうか相手を選んでいるのだという鋭い指摘で、もう、著者の私にも刺さりまくりました(笑)。
加藤:朝井さんらしい。『できることならスティードで』の解説は朝吹真理子さんにお願いしました。朝吹さんの作品が好きだし、ご本人も旅のエッセイを書かれているので。
辻村:文庫って、巻末に解説がつく楽しみがありますよね。自分に対するご褒美みたいに思っています。
加藤:それもあわせて、読者の方にも、文庫版を楽しんでもらえたら嬉しいですね。
(構成/ライター・瀧井朝世)
※AERA 2022年11月28日号