東京オリンピック・パラリンピックのために建設された「仮設の観客席」。無観客開催で一度も利用されないまま、解体される施設がある。どう活用すべきだったのか。AERA 2021年9月13日号から。
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メインアリーナを囲むように巨大な観客席が見える。本来なら、9千人近い観客が見守るはずだった。しかし、大会中、客席からの声援はなかった。
東京都世田谷区の「馬事公苑」は東京五輪・パラリンピックで馬場馬術などの会場となった。
1940年に開設され、64年の東京五輪でも馬術競技の会場になった。しかし施設の老朽化もあり、2017年から改修を開始。9300人を収容する観客席と8本の大型照明など、五輪・パラのためだけの「仮設観客席」として建設した。
■一度も使用されず解体
だが、首都圏は原則「無観客」となった。観客席には一度も観客が座ることなく、大会が終わると照明塔とともに解体されることになる。
「もったいないですよね」
公苑に隣接する広場に子どもと一緒に散歩に来ていた、近所に住むという女性(33)は言う。
もともと広い苑内は木々が生い茂る憩(いこ)いの場だった。しかし、改修工事によってすべて伐採された。しかも、大会終了後は、仮設部分を解体した上で2期工事に取りかかるので、23年秋頃まで休苑になるという。
「私たちの税金が無駄に使われているようで、納得できないところがあります」(女性)
東京2020オリンピック・パラリンピックが終わった。首都圏では原則無観客となったことで、馬事公苑のように一度も使用されないまま解体されることになる施設がある。
東京・お台場、五輪ビーチバレーの会場となった「潮風公園」(東京都品川区)もその一つだ。1万2千人を収容する仮設スタンドなどが建設されたが、一度も利用されずに解体される。東京五輪・パラ大会組織委員会によれば、こうした観客席など仮設設備関連の工事費は全国で計3890億円。財源はいずれも税金だ。これだけの公金を使い、何か打つ手はなかったのか。