特にZeebraさんとAK‐69さんの声明には、どちらも『ヒップホップシーンを牽引していく立場として』という文言が含まれていて非常に興味深い。「シーン」というのは、単なる「業界」だけでなく、客(ユーザー)も含めた仲間意識、共通のマインドやバイブスなどを表す言葉であり、そこには「みんなで盛り上げて、さらなる高みを目指そうぜ!」的な志(こころざし)も多分に含まれています。そしてそれを「牽引する」という表現。シーンや仲間に対する彼らの強い責任感が込められており、これまたヒップホップならではの「熱さ」を感じさせられます。一方で、ビッグネームふたりがそれぞれ自らを「ヒップホップの牽引者」と謳っているのを見るにつけ、その揺るぎない自尊心の高さに感心するとともに、何か抗争でも始まるのではないかとドキドキするのは私だけでしょうか。これらすべてひっくるめて、「ヒップホップの性(さが)」の真骨頂を見せつけてもらった気がします。
残る課題は「ユーザーを躾ける」こと。今や日本の音楽業界におけるヒップホップは、立派なメジャーシーンです。とは言え、ヒップホップを好む人たちというのは、往々にして「ヒップホップ的な人種」に限られている節があります。どんなジャンルにも「客層」というのは存在しますが、ことヒップホップのユーザーは他と比べてスタンスが画一的である故、今回のように歯止めが利かなくなることも常に予測しておく必要があるでしょう。客の質は、「板(ステージ)」を作る側・立つ側の意識と徳を映す鏡です。
ちなみに今回いちばん面白かったのは、一連の騒動をラップで釈明(アンサー)した般若さんです。
ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
※週刊朝日 2021年9月17日号