仕事から帰るとき実感します。多摩川を通りすぎて、鎌倉の駅に降り立つと、疲れがすっと消えます。ゆっくり歩けます。そんな雰囲気なので、仕事と生活のバランスを取りたくなりました。もともと生活が乱れがちでした。家事の分担を逆転させて、夫が台所に立ってくれるようになりました。丁寧に暮らしたいと思っています。
■夫 竹本英樹[55]フォトグラファー
たけもと・ひでき◆1966年、札幌市生まれ。HTB(北海道テレビ)映像に所属して、HTBでディレクターを務める。2004年頃から写真を撮り始め、16年にフリーランスに転身した。世界のコンペティションで評価され、これまで6カ国で作品を発表。20年12月には2冊目となる写真集を出版した
20年ほど前に亡くした父親との記憶は、日々繰り返した日常風景でした。家族で食卓を囲ってジンギスカンを作って、そのときの父親は風呂上がりでヘアトニックのにおいがしました。
僕は日常の風景を撮影します。あ、この瞬間、幸せそうと思うと、8ミリのムービーカメラで撮って、1コマを伸ばします。ピントも色も淡い写真です。人の頭の中に残っている風景って、たぶんこれくらいの解像度だと思います。娘を8ミリで撮ったときは「いつまで撮れるかな」なんて思っていましたね。
妻のポートレートも撮りますが、本人からの評判はよくないです。全体のバランスはいいのですが、かわいく、きれいにの欲求が満たされないらしくて。「ここは太って見えるよね」とダメ出しされます。出かけた先でスマホで撮った写真も、インスタにはほとんど使ってもらえません。娘の方が撮る角度をわかっているみたいです。そんなことも含めて、大切なものは日常の中にあると思っています。
(構成・井上有紀子)
※AERA 2021年9月20日号