ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、自民党総裁選出馬を決めた高市早苗さんについて。
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実に弁舌さわやか。しかも努めて朗らかに振る舞う姿に、ただならぬ戦慄を見た高市早苗さんの自民党総裁選出馬会見。次期総理の適性云々はさておき、無性に人の心を躍らせる何かを持っている女性(ひと)です。良くも悪くも。「早苗の本格始動」を長く心待ちにしていた私としては、いきなり濃厚なショータイムを観たような気分です。
後に「55年体制の崩壊」と呼ばれるようになった1993年の衆議院選挙。自民党が38年ぶりに下野し、連立内閣(細川内閣)が誕生した歴史的大政変の中で高市早苗(当初は無所属)という国会議員は産声を上げました。ちなみに今回の総裁選を争う野田聖子さんや岸田文雄さん、また田中真紀子さんや安倍前総理も皆「同期」。さらにはあの小池百合子さんも、衆議院に鞍替え初当選したというまさに超豊作回。その後の女性議員の活躍という側面においても、間違いなく大転換点となった選挙と言えるでしょう。
当時私は18歳。いよいよ選挙や政治が「自分事」になってくる年頃でした。そこへ知性と血筋と化粧の匂いをプンプンさせながら田中真紀子や小池百合子が登場したわけです。ただ「華やか」では済まされない、女たちの「睥睨(マウンティング)」にとてつもない興奮を覚えました。
今日の女性政治家たちの繚乱ぶりを、最初から具(つぶさ)に観て来られたのは、オカマ的には「恵まれた世代」なのかもしれません。土井たか子・山東昭子・森山真弓・扇千景といった先人たちが築いてきた「女性議員」とは似て非なる、「女性政治家」という新しい女の生き様。バーキンもどきのバッグに、その情熱と性(さが)を詰め込んで、爺さん多めの男社会をカツカツと細い踵で音を立てながら掻き分けていく。爺さんたちに取り入り、手懐け、論破し、やがて時代が進むとともに、それは女同士の戦いになっていきました。皮肉なもので「女性の躍進」というのは、得てして「女性の潰し合い」です。褒め合い、睨み合い、足を引っ張り合う。女に生まれず、そしてオカマに生まれて本当に良かったと思うばかりです。