──「入浴する智子と母」を収めたユージンの遺作となった写真集『MINAMATA』が、映画のインスピレーションになっているようですね。
「写真集は被写体の貴重な瞬間をとらえた点で本当に素晴らしい作品だと思う。当時のミナマタを生々しくとらえている。彼がミナマタで生活し、現地での状況を写真で証明したことは、驚くべきことだ。というのも、彼は当時戦地をリポートする写真家としてすでに長い経歴を持っていた。さらに戦地で負傷しトラウマも抱えていたんだ。だから、ミナマタというテーマは、もはや若くない彼が自らやる気になるような仕事ではなかったのではないかと思うよ」
──ミナマタについて初めて知ったとき、どんな気持ちになりましたか?
「歴史的な観点から、ミナマタについて読み、リサーチし、この事件が起こったということ自体にショックを受け、これを人に知ってもらうことの重要性を感じた。メディア、映画の力を使って、事実を知ってもらい、知らない人に開眼してもらうことができたらと願った。同様のことが現在も続いているということを。このような映画はまれにしか製作されない。だから自分がこうやって、本作を製作することができ、人に見てもらえる機会が与えられたことは、うれしい。この映画を契機に、これまで見えなかった現実に目を向けてもらえる機会になればと。知らなければ、気を配ることもできないから。映画の力を借りてメッセージを伝播できたらというのが、僕自身の、いや製作に関わった全員の夢だ」
──ユージンは仕事で戦地に入り負傷し、そのせいでアルコールに溺れたり、私生活では孤独な人だったという点にも目を向けていますね。
「映画のテーマをミナマタに絞り、ユージンという人間像を作り上げるために、いくつかの要素を加えていったんだ。彼はきっと脳の中がとっても『賑やか(ラウド)』な人で、一生を通し、落ち着いていたときがあまりなかったのではないかと思う。だから孤独で自分だけの特別な世界を生きていたのだと想像する」