
安倍・菅両政権が幕を閉じ、新たな日本のリーダーを選ぶ総裁選で熱戦が繰り広げられている。だが、現在の総裁選のシステムでは「国民の声を反映しているとは言い切れない」と言うのは杉田敦・法政大学教授。AERA 2021年10月4日号は杉田氏にくわしく聞いた。
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菅政権は1年余りで終わりを告げ、総裁選には4人が立候補した。各候補者がコロナ対策や外交、憲法改正などの政策を主張するが、杉田敦・法政大学教授(政治理論)は、政策議論の前に、前政権の不祥事や疑惑を調査する「換気」が不可欠だと指摘する。
「菅政権が短命に終わったのは、コロナ対策や経済政策が立ち行かなくなったことはもちろん、安倍政権から続く情報隠蔽や公文書の破棄といった強権が国民の不信感につながったからです。ただ、4人の候補者のなかに安倍・菅政治に批判的な視点を持つ方はほとんどいません」
首相が代わると、政策転換だけでなく、前政権での強引とも指摘される政治のやり方を反省し、リセットする側面もある。だが、安倍政権下であった森友問題について、再調査に前向きな見解を示したのは、野田聖子氏1人のみ。残る3候補は曖昧な表現にとどめている。
「ある政党による政治がうまくいかない場合は別の政党に交代し、膿(うみ)を出し切るのが普通です。長期政権では官僚がものを言えません。安倍(晋三)氏がキングメーカーと言われるような形で影響を残した総裁選では、党内の腐敗は進んでいく一方です」
4人の誰が総裁になっても、大きな変化は期待できないのだろうか。杉田さんはこう言う。
「安倍、菅(義偉)、麻生(太郎)、二階(俊博)といった古い世代の方々が裏で操縦しようとすれば、人事を巡る交渉が活発化します。結局は政治家同士の出世争いのなかで総裁選も動くことになり、恩を売ったり返したりする関係性で凝り固まってしまう。限界のある総裁選だと思います」
では、国民は何をどう見るべきか。問題なのは、「ある錯覚」を抱いていることにあると杉田さんは指摘する。