フォトジャーナリストの小平尚典氏が撮影したスティーブ・ジョブズ。1987年から米国で撮影してきた小平氏いわく「製品発表会でのジョブズは、いつも自信に溢れていた」(写真/小平尚典)
フォトジャーナリストの小平尚典氏が撮影したスティーブ・ジョブズ。1987年から米国で撮影してきた小平氏いわく「製品発表会でのジョブズは、いつも自信に溢れていた」(写真/小平尚典)
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 いつの時代もスティーブ・ジョブズの表情には、どこか「華」と「孤独」が共存する。その眼差しが捉えていたのは希望にあふれる世界。はたして私たちの今は──。AERA 2021年10月11日号では「スティーブ・ジョブズ不在の10年」を特集。ここでは、作家・片山恭一の「ジョブズ考」を紹介する。

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 マスクとスマホ。

 現在、地球上でもっとも広範に見られる光景は、マスクを着用してスマホを操作する人々の姿かもしれない。マスクを着けたアフガニスタン難民の家族は、スマホのGPS機能を頼りに地中海を漂流する。イスラム教の指導者たちはマスク着用で会見に臨む。きっとポケットにはスマホが入っているのだろう。

 何かが大きく変わろうとしている。スティーブ・ジョブズがデザインした世界で、彼のいない未来へ向かって。いちばん大きく変わろうとしているのは人間自体かもしれない。かつて「人間」と呼ばれてきたものは、まったく別のものに組み替えられようとしている。それは二進法の分子記号からなる「物質」に限りなく近づいていく。

片山恭一と小平尚典による共著。2016年に米カリフォルニアを"ふたり旅"したことがきっかけで、ジョブズ没後10年となる今年、刊行した(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
片山恭一と小平尚典による共著。2016年に米カリフォルニアを"ふたり旅"したことがきっかけで、ジョブズ没後10年となる今年、刊行した(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)

 物理学の力があまりにも強大になってしまったのだ。アインシュタインの重力方程式を知らなくても、原子爆弾や原子エネルギーの威力は誰もが知っている。ニールス・ボーアが量子力学を発案しなければ、現在のようなコンピューターもスマートフォンもなかったはずだ。その物理学が、いまや人間の概念をも組み替えようとしている。

■「民主主義」が名ばかり

 物理学は万物を物質の因果関係として説明する。人間も分子記号に還元される物理現象であり、人の心と身体すべてが遺伝子という物質の因果関係として説明される。それは二進法で解析され、再現される。モデルナのCEOがインタビューで言っているのは、まさにそういうことだ(「Newsweek」2021年8月3日号)。そこへ至る過程として、現在のコロナ禍があるように思われる。

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懐かしい彼の人間臭さ