外岡さんの新刊・『価値変容する世界』
外岡さんの新刊・『価値変容する世界』

 また、これまでの日本のメディアの「縦割り取材」の限界がここにきて出てきたなという気がします。メディアはそれぞれの持ち場の役所や記者クラブの視点でしかものを見てこなかったのではないか。それが全体像を見えにくくしている一つの原因ではないかと感じます。これはメディアの問題だけではなく、日本の官僚主義、明治以来の「官治」の伝統を写し取っているメディアの姿です。

 たとえば他社より先に情報を得て、それを紙面や番組で大きく取り扱うことで会社の中で評価されたり、役所の覚えがめでたかったりする。つまり、取材源との距離をいかに縮めるかで切磋琢磨している。それは読者、視聴者のニーズではなく、政策立案者のニーズにこたえているわけです。

―――現在のマスメディアの取材態勢について、どう考えますか。

 SNS時代になりさまざまな人がいろいろな発信をするなかで、マスコミだけが特定の取材源に頼った役所取材をしているのは、時代にあわなくなっていると感じます。とくに新聞には、「すべてのことを落としてはいけない」「自社ですべてカバーしなくてはいけない」という昔ながらの態勢がそのまま残っています。しかし人員も縮小し、役所にすべての記者を張りつけるということができない時代になっています。

 これまでメディアは「装置産業」でした。印刷機や販売網が必要な新聞、電波の発信装置やスタジオが必要なテレビやラジオだけが情報を独占し発信していましたが、いまは誰もが発信、受信できる時代になり、メディアにおける「装置産業」としての優位性が低下しました。それにより、各企業、各メディアが一社だけでフルセットでカバーすることができなくなっています。若年層が新聞やテレビをみなくなり、市場が縮小しているなかで、フルセットでいくというのは時代に逆行していると思います。

―――コロナについては、たとえば感染症の専門家などがSNSで自ら情報を発信していました。そのなかで、メディアが果たすべき役割は何ですか。

 SNS時代のメディアにとってもっとも重要なのは、検証する力とともに、フォーラムを形成する力だと思います。SNSは個々別々に発信していて、多様性は反映するのですが、意見を闘わせることをしなくなりがちです。

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「知ってもらうべきだ」という発想ではダメ