―――先日の東京五輪に象徴されるように、日本の報道では大きな出来事があると「一色」になりがちだ、という指摘があります。

 五輪なら五輪一色で、終わったら自民党総裁選一色、次は衆議院選挙一色。その間に何が行われているかがほとんど伝えられていない。それはいまのメディアが抱えている大きな問題です。

 私は海外で取材をした経験から、日本の報道は「五輪」「ノーベル賞」「国連」という3つについて突出した扱いをしていることを知りました。それは、戦時中の孤立と敗戦のトラウマがものすごく大きかった。その結果、この3つにものすごく期待をかけるところがあります。五輪一色になるのはメディアがつくりだした結果でもある。偏った報道になりがちだというところを自覚していないといけないと思います。

――――コロナ禍を受け、マスメディアがいまやらなければならないことは何ですか。

 かつてなかったような、しかも数年にわたって続くことが確実視されていた問題が起きたとき、メディアはいままでの組織のありかたを再編するべきです。役所単位で張り付いていた人員配置を、1週ごとに再編するぐらいの対応が必要だった。激動のときには、今までの組織の在り方をすべてご破算にして作りかえないといけないと思います。

 もうひとつは取材のありかたです。対面取材がなかかできない、集まって話すことができない状況はこの先もありうるでしょう。そのとき、対面ができないために失われた問題をどうカバーするかを真剣に考えなくてはいけない。雑談、無駄話をする場がなくなってしまうと、発想もやせ細るし、新聞づくり、番組づくりの姿勢も簡素化して、遊びのない、ゆとりのないものになっていってしまいます。

 私はコロナの発生以来、年表を作るためにずっと新聞の切り抜きをして残していますが、最近、残すべき記事がどんどん少なくなってきたと感じます。日付のあるニュースではない「傾向記事」が増えてきたということに加え、現場に行って取材している記事がみるみるうちに少なくなってきた。この状況ではやむを得ない面もありますが、「現場とZoomでつないで雰囲気を見せてもらった」でもいいから、現場の声を伝えること。それを忘れたら、SNSで直接発信されたものを読んだほうがいい、ということになってしまうでしょう。

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「会社は」ではなく「私は」という主語で語る