多忙な仲岡がよく買い物に訪れるのが天神橋筋商店街。大阪人がこよなく愛する場所だ(写真=楠本涼)
多忙な仲岡がよく買い物に訪れるのが天神橋筋商店街。大阪人がこよなく愛する場所だ(写真=楠本涼)

 弁護士、仲岡しゅん。LGBTという言葉が社会に広がりつつある一方で、法律の壁に阻まれ、自分らしく生きられない性的少数者も多い。弁護士の仲岡しゅんを頼り、性的少数者が相談に訪れることも少なくない。仲岡もまたトランスジェンダーである。弁護を引き受けるかは、依頼者に闘う覚悟があるかどうか。人生を切り開くために共に闘い、道なきところに道をつくる。

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 大阪・西天満にある大阪地方裁判所に弁護士の仲岡(なかおか)しゅん(37)が姿を現した。腰まで届くさらさらのスーパーロングヘア。パステルカラーのワンピースに、高さ10センチのハイヒールをコツコツと響かせて裁判所内を歩く仲岡の姿は、ダークスーツの法曹関係者が行き交う裁判所のなかでひときわ目立つ。「暴れてきますか」と不敵な笑みを浮かべると、自販機で買ったドデカミンをグイッと飲み干し、訴訟資料の入った真っ赤なスーツケースを引きながら法廷のなかに入っていった。

 仲岡が注目を集めるのはそのファッションだけではない。本人の同意なく性的指向や過去の性別を第三者に暴露(ばくろ)する「アウティング」やハラスメントなど性的少数者をめぐる訴訟で多くの結果を出してきた。

うるわで働く仲間には仲岡が自ら「一緒にやらへん?」と声をかけてきた。大切にしているのは「何ごとかを成し遂げたいと思う情熱があるかどうか」だという(写真=楠本涼)
うるわで働く仲間には仲岡が自ら「一緒にやらへん?」と声をかけてきた。大切にしているのは「何ごとかを成し遂げたいと思う情熱があるかどうか」だという(写真=楠本涼)

 自身もトランスジェンダーを公表し、2014年に司法試験に合格すると、戸籍は男性だが女性として大阪弁護士会に登録。仲岡のもとには、テレビや新聞などの報道で知った多くの性的少数者が全国から相談に訪れる。

 たとえば19年12月、仲岡は未成年の娘がいるMtF(出生時は男性だが女性として生きるトランスジェンダー)の代理人として、神戸家裁尼崎支部に戸籍の性別変更を求める家事審判を申し立てた。

 男性として生まれた依頼者は、小さいころから自身を女性と認識していた。自認する性別に自分の身体や外見を合わせる「性別移行」をしながら、親の勧めで結婚した女性との間に娘をさずかった。性別適合手術を受けて身体的にも女性になった。

 だが戸籍は男性のまま。就職する際の履歴書やパスポート、小売店のポイントカード取得まで、日本で生きていると、性別を問われ、性別によって分けられる場面は多い。

 戸籍も現状に合わせたい。そう望んだが、未成年の子がいる場合には「子を混乱させる」として変更を認めない性同一性障害特例法に阻まれた。

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