
もう一つ、驚いたのは、「演説」と「選挙カー」だ。
「(政権は)やらなくちゃならないことは、やらなくちゃならないんです」
「ワクチンは、効くんです」
菅義偉前首相は10月27日、横浜市内のJR駅前で演説し、約1000人の市民が集まった。日中はあちこちを選挙カーが行き交い、「ウグイス嬢」が候補者の名前を連呼している。しかし、米国の選挙で行われる候補者と有権者のコミュニケーションは、そこにはなかった。
米国の選挙は、有権者とのコミュニケーションが最重要とされる。大統領選挙から地方警察の保安官まで、タウンホール形式の集会を大小取り混ぜて開催し、連日それを繰り返す。駅前の集会でも、単に名前を連呼したり、「勝たせてください」と頭を下げるだけでは、多くの有権者はその候補者の政治家としての資質を真剣に疑うだろう。
タウンホール集会では、有権者からの質問にいかに答えるかが、有権者の判断材料となり、当否を左右する。最近は、有権者が候補者との質疑をスマホで動画撮影し、ソーシャルメディアにリアルタイムでアップする。その場に行けない有権者が判断材料にするためだ。たった一度の失言が、「落選」につながるかもしれない。
今回の衆院選は、新型コロナウイルスの感染拡大による社会不安、安倍・菅政権下で起きた森友・加計問題などの「負の遺産」に、有権者が審判を下す機会だった。それだけに、18年ぶりに見た選挙期間中、これまでにないポジティブな動きも見つけた。
記者の弟夫婦や甥(13)が投票前に見ていたのが、「選挙マッチング」アプリ。NPOやメディアが運営し、質問に答えることで自分の選挙区の誰に投票したらいいかが分かるようになっているアプリで、記者も初めて使ってみた。細かい字で政策を読むよりも使い勝手がよく、投開票日前の夜と当日朝は、つながりにくくなっていた。
訳がわからないまま、おざなりなチェックを入れていた最高裁判所判事の国民審査でも、11人の審査対象判事について、「夫婦別姓」「一票の格差」などに誰が違憲あるいは合憲の判断をしたのかを表にまとめるサイトも現れた。
「選択的夫婦別姓や同性婚を進めない政治家をヤシノミのように落とすことで、結果として賛成する政治家を増やし、制度の早期実現を目指す活動」を目指す「ヤシノミ作戦」も目を引いた。選択的夫婦別姓問題をめぐり、2018年に国を提訴した青野慶久・サイボウズ社長が立ち上げたものだ。
これらは、市民やメディアが始めた目新しい動きだ。「とうとう、動きだした」という感じがした。しかし、一回の選挙では山は動かない。こうした傾向が今後の選挙でも続き、政治家も選挙運動のあり方を見直してほしい。そう、強く感じた。
(ジャーナリスト・津山恵子)
※AERAオンライン限定記事