内容的には脚本家・野島伸司のオリジナルだったものの、主人公の名字の読みが同じオオバ(小説のほうは「大庭」でドラマのほうは「大場」)だったり、随所に漂う背徳的なドロドロ感が似ていたりした。つまり「人間失格」という鉄板のタイトルを使うことで、太宰の世界と通じるところもある野島ワールドにうまく引き込んだわけだ。
今回の「日本沈没」の場合、遺族からの抗議のようなトラブルはない。また、原作として明記したうえでの映像化でもあるが、美味しいとこ取りにはかなり積極的だ。その際、とことん大事にされているのが「日曜劇場」のテイスト。いわば、原作ファンより「日曜劇場」ファンに向けて作っているのである。
では、そのテイストとはどういうものかというと、次のふたつの言葉で説明できる。「現代版水戸黄門」と「もうひとつの大河ドラマ」だ。
まず「現代版水戸黄門」については「半沢直樹」の第1作がヒットしたあたりから指摘され始めたこと。権力と反権力という対立構図を作り、決めぜりふを盛り込みながら勧善懲悪の逆転ドラマに仕上げるという、時代劇が得意とする手法を現代劇において実現してみせた。これは日曜劇場の多くの作品で欠かせない要素になっている。
また「下町ロケット」のようなサクセスストーリー物は「もうひとつの大河ドラマ」的要素を感じさせる。じつは同じ日曜夜のドラマ枠であるNHKの大河ドラマがやりたいことをもっと自由にやれているのが「日曜劇場」だという印象なのだ。「JIN-仁-」のような幕末へのタイムスリップ物しかり、あるいは「南極大陸」のような近現代の実話をもとにした作品しかりである。
そして、今回の「日本沈没」にも、国民への情報公開をめぐる対立構図や、国難にどう立ち向かうかという政治家や官僚の葛藤から、この水戸黄門プラス大河というテイストが伝わってくる。そこに、同時代的なテーマまで絡められるのが「日曜劇場」のお得なところだ。