下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)。
下川裕治(しもかわ・ゆうじ) 1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)。

 たしかにそうかもしれない。宿からそう遠くない。歩いて行くことにした。

 博物館はタハリール広場に近い。広場前の交差点の信号が100メートルほど先に見えたときだった。4~5人の男たちの手が一斉にあがり、ひとりは車に乗って僕のところまで近づいてきた。白タクの運転手だった。

「ギザのピラミッドまで格安でいくよ。どう?」

 観光客が本格的に戻ってきてはいないのだろう。運転手たちは客引きに必至だった。

 しかしなぜ、100メートルも手前から、僕が観光客であることがわかったのだろう。

「マスクか……」

 ざっと見たところ、カイロ市街でマスクをつけている人は3割もいない。そのなかで、マスクをつけて観光地を歩くということは、「いいカモがいますよ」

 と客引きに伝えているようなものだった。

 感染しないようにできる限りの努力をする……それはコロナ禍の旅行者の義務に近いものだと思う。しかしマスクをすると、集まってくる客引きが鬱陶しい。路上で悩む。エジプトの旅は難しい。

■下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)。

※記事の内容は9月時点での情報です。

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