それにしても「泣く」「涙する」という行為が、あらゆる感情表現の中でトップとされるこの風潮は、いい加減どうにかならないものでしょうか。先日も、永野芽郁さんが主演した映画の宣伝CMのコピーが「試写会で92%が泣いた」だったのを見て愕然としました。なんたる数的理論! 泣きはせずとも感動したかもしれない8%の観客の立場は?
昔から「泣ける」を振りかざしてくるような作品は、映画にしろ歌にしろ、その時点で「ケッ!」となるタイプでしたが、いよいよそれを数字でこれ見よがしに強調するような時代になってしまったようです。決して永野芽郁さんが悪いわけではありません。とても可愛らしくて溌溂とした良いお嬢さんだと思います。
映画配給会社さんも「人前では泣けない人たち100人中92人が泣いた」ぐらい気概のあるPRを仕掛けて頂きたいものです。たとえ泣いても「泣いてない」と言い張ってやりますから。
ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
※週刊朝日 2021年12月3日号