日々の生活が苦しい人がいるなかで、ドラマのせいで鬱屈とした気持ちになってほしくない。そんな思いがよぎったが、そのたびに当初の思いに立ち返った。
「何回もリメイクされてきた作品を今この時代にやる意味は何かをスタッフも出演者も一緒になって議論してきました。2050年問題という現実が迫るなかでも、一人ひとりにできることがある。年配の方から小さい子どもまで、その思いを感じ取っていただきたい、というのが私たちの結論でした。ストーリー作りや演技で迷ったときも、このテーマを胸に秘めて乗り切ってきました」
物語の舞台を少し先の2023年にしたのは、「まだ変えられる」と希望を持てるようにしたかったから。初回放送直前の10月7日夜、関東地方では最大震度5強の地震が発生したときには、不安をあおらないよう、打ち出し方を考え直した。現実に起きている問題と向き合うからこそ、リアルとフィクションのバランス感覚を欠かさないようにした。
それ以上に大変だったのは、エンターテインメントの要素をどこまで許容するかだった。
「制作する側が言うのもなんですが、なかなか爽快な話ではないんです。日曜の夜って憂鬱じゃないですか。明日から仕事が始まるし、見終わった後にスッキリして頑張ろうと思っていただけるような作品を届けるのが日曜劇場の本質にあります。だから、これまでの日曜劇場よりは爽快感は薄れてしまうかもしれないと思っていました」
ここ数年の日曜劇場は、物語の面白さに加え、出演者たちの想像以上に力がこもった芝居も評判だった。だが、「日本沈没」ではそうした演出も難しい。小栗旬演じる環境省の天海啓示が政府を動かす様子にスカッとすることもあるが、その一方で常に不安が横たわる。
田所博士がどれだけ弾けるか
そんなドラマで唯一独自の路線を貫き、物語をエンタメに昇華したのが、香川照之演じる田所博士の存在だった。
「撮影を終えて振り返ってみると、田所博士がどれくらい弾けるかということがこのドラマの生命線になっていたと気づいたんです。田所博士は原作でも破天荒なキャラクターですが、見た目や芝居の雰囲気、ぶっ飛び具合も香川さんがすべてご自身でハンドリングしています。一番恐ろしいことを言う人物であり、唯一ハネられる役でもある。現場では監督と『かなりぶっ飛んでいますね……』と話していたのですが、ドラマとしてつなげていくとものすごい力学を持っていらっしゃる。絵力も迫力がありますが、自分が演じる役が作品にどう影響するかを計算されている方です。監督陣含め、脱帽しました」