WASSHAが開発したシステム。太陽光パネルで電気をつくり、懐中電灯のようなライトに充電して使う(撮影/写真部・東川哲也)
WASSHAが開発したシステム。太陽光パネルで電気をつくり、懐中電灯のようなライトに充電して使う(撮影/写真部・東川哲也)

 一晩当たりのレンタル料は、現地の一般家庭が1日に消費するケロシン代と同じ25円に設定し、電子マネーの「エムペサ」で受け取る。大手携帯電話会社のサファリコムが07年に導入したエムペサは、銀行口座を持たない人でもショートメッセージで送金できるシステムだ。人口の2割しか口座を持たないケニアでは、事実上の金融インフラとして機能している。だから未電化地域に住む人にとっても携帯電話は必需品。片道1時間を歩いて街まで充電にくる人も少なくない。充電機能付きのランタンがあれば手間も省ける。

 利用者はレンタル料をWASSHAに払い、売上高に応じてWASSHAがエージェントに報酬を支払う。エージェントはレンタル件数を増やそうというインセンティブが働く。秋田は3カ月にわたり現地に滞在し、利用者が使いやすいサービスになるようシステムの修正を繰り返した。貸し出し状況を遠隔で確認できるツールも開発した。

仕事始め前日に求人

「ここから先は自分一人では進めない」

 帰国した秋田は資金調達に奔走し、東京大学エッジキャピタルパートナーズから2億円を調達した。これを原資にチーム作りを開始する。14年1月、仕事始めの前日を狙って、ネットの求人サイトに広告を出した。

「事業の立ち上げで一緒にアフリカに行ってくれる人を探しています!」

 かつての自分がそうだったように、人は「考える時間」ができると、自分の人生を見つめ直す。年が改まる年末年始ならなおさらだ。実家に帰ったり旅行に出かけたりした後、職場に戻るわけだが、多くの人が「自分の人生、このままでいいのか」と迷うタイミングがここだ。

 秋田の思惑通り、迷いの中にいたのが米田竜樹。ブラザー工業の海外営業部でアジア市場の営業やマーケティングを担当し、経営企画で会社の中枢にも籍を置いた。その後、デロイト トーマツ コンサルティングに移り、大手製造業の海外進出や新規事業開発の支援に携わった。

 大阪外国語大学でベトナム語を学んだ米田は、もともと途上国ビジネスに関心があった。秋田が出したアフリカ行きの提案に飛びつき、14年4月に入社した。大急ぎで準備を整えた二人は5月3日、ケニアに入った。(敬称略)(ジャーナリスト・大西康之)

AERA 2021年12月6日号より抜粋

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