短期集中連載「起業は巡る」の第2シリーズ。今回登場するのは、アフリカの電気がない地域で暮らす人々に明かりを届ける「WASSHA(ワッシャ)」の秋田智司(40)。AERA 2021年12月6日号の記事の2回目。
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>>【1回目「途上国支援したい」の言葉に「なんかイヤ」とアフリカの若者 起業家の胸に刻まれた会話】より続く
内閣府の起業支援プログラムに採択されたが、なかなかうまくいかない。もがいているうちに「途上国支援のビジネスがしたい人たち」と友人になり、夜な夜な集まるコミュニティーができた。収入が必要だったので、起業の準備を兼ねて、企業の途上国ビジネスを対象にしたコンサルティングを始めた。クライアントの一人に、秋田の人生を変える人物がいた。
東京大学特任教授(当時)の阿部力也。彼はインターネットで情報を送るのと同じように、電気のやり取りができるようになる「デジタルグリッド」を提唱していた。ランプ一つを灯(とも)す程度の電気でも「誰に売った」「誰から買った」という履歴を記録できる。「電気の量り売り」だ。まさに未電化地域が多い途上国向けの技術であり、阿部は「技術を社会実装したい」と秋田に知恵を求めてきた。
12年、秋田は市場調査のため、阿部と共に10年ぶりにアフリカの地を踏んだ。未電化地域と人口の多さで選んだのは、ケニアとタンザニア。両国の政府や電力会社にデジタルグリッドの有用性を説いたが、前例のない「電力のインターネット化」に興味を示す人はいなかった。
がっくりと肩を落として帰国した秋田と阿部のもとに、ケニアで知り合った電力会社の幹部、ヘンリーからメールがきた。
「ケニアの未電化地域ではLEDランタンが重宝がられているが、高くて買えない人も多い。ランタンをレンタルするビジネスをやらないか」
「火を灯す」を社名に
ケニアの未電化地域では灯油の一種ケロシンを燃やして灯りにしているが、煤を吸い込む健康問題が起きていた。火事の原因にもなる。ソーラーパネルで充電するランタンは高くて買えないが、レンタルなら「需要はある」という見立てだった。ランタンの充電機能は、アフリカでも爆発的に普及している携帯電話にも使える。