![『カミュ伝』
(924円〈税込み〉/インターナショナル新書)
『異邦人』『ペスト』という世界文学史に残る傑作を発表し、ノーベル文学賞を受賞しながら、わずか3年後に自動車事故で急逝したアルベール・カミュ。アルジェリアでの貧しい幼少期から結核との闘い、演劇への情熱、ナチス統治下のパリでのレジスタンス活動、盟友サルトルとの対立と幾多の女性とのロマンス──不条理な運命に反抗し、46年の人生を駆け抜けた作家の生涯と作品、その思想に迫る(撮影/写真部・加藤夏子)](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/d/2/777mw/img_d2065638159b6f92291cd040c01d557f74477.jpg)
フランス語で不条理をあらわす「アプシュルド(absurde)」には理屈が立たないという意味だけでなく「ばかげている、ナンセンスだ」という意味がある。このニュアンスが翻訳の際に抜け落ちてしまったのだ。
「『カミュ伝』では不条理が意味するものをわかりやすく説明し、カミュをフランス文学の文脈から解き放ちたいと考えました。日本でフランス文学というと、よくいえば高踏的、悪く言えば現実と無関係な観念の遊びをやっているというイメージがありますね。けれどカミュの書いた小説作品は、病気やレジスタンスといった彼の体験、実人生と結びついて、そこから生み出されたものでした」
たとえば『異邦人』の有名な冒頭「きょう、ママンが死んだ」は、場末に住んでいる主人公ムルソーの境遇を考えると「母さん」と訳すのが妥当ではないか。他にも山田風太郎や三島由紀夫がカミュと同じ考えを持っていたこと、また青年時代からの演劇との関わり、恋多き男であったことなども興味深い。
「カミュは『異邦人』で20世紀の人間像の典型を作り出しました。46歳のとき、自動車事故で急死しますが、それさえも自動車という現代性を帯びて、彼の人生を結晶化させるようなものになった。残酷だけれど、カミュらしい死を生きたといえるでしょう」
(ライター・矢内裕子)
※AERA 2021年12月6日号
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