短期集中連載「起業は巡る」の第2シリーズ。今回登場するのは、アフリカの電気がない地域で暮らす人々に明かりを届ける「WASSHA(ワッシャ)」の秋田智司(40)。AERA 2021年12月6日号の記事の3回目。
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途上国ビジネスの経験を積んできた秋田だが、業務設計ではビッグビジネスを経験してきた米田に一日の長がある。現地スタッフをどうやって教育するか、在庫をどう管理するか。修理体制はどう作るか。米田が加わったことで、WASSHAの業務設計は一気に緻密(ちみつ)になった。
しかし、ケニアでは秋田や米田が思ったようなペースでは事業が拡大しなかった。最初の7カ月で開拓できたエージェントは11件。15年1月、WASSHAはケニアの隣のタンザニアに進出した。すると驚いたことに、最初の店舗の月間売上高がケニアのトップの店舗を上回った。2店目、3店目もそれに匹敵する売り上げを記録した。
タンザニアで急成長
「ケニアはやめてタンザニアに絞ろう」
この判断が功を奏する。ランタンのレンタルは爆発的に普及し、現在、タンザニアの店舗数は4732店。その後に進出したウガンダの871店を加えると、2カ国で20万個近いランタンを貸し出している。ケニアとタンザニアは何が違ったのか。
「東アフリカの玄関口」と言われるケニアは経済成長が続き、電力事業が自由化され、地熱発電の開発も進む。秋田が最初に乗り込んだトゥルカナのように未電化地域は残っているが、「もうすぐ電気が来る」という期待感がある。経済的な余裕もあり、ランタンも「借りるより買いたい」という人が多い。
一方、1980年代半ばまで社会主義体制が続いたタンザニアは農業が中心だ。国営電力会社が市場を独占しており、電化は遅々として進まない。電気の代替になるケロシンもケニアのように豊富に流通しておらず、価格もしばしば高騰する。ランタンのレンタルは「待ってました!」のサービスなのだ。
アフリカの未電化地域で暮らす人は6億人。タンザニアだけで3400万人にのぼる。これだけ需要があるなら、供給路さえ確保すれば成功できると思うかもしれない。リーマン・ショックで先進国経済が凍りついた2009年ごろには、インド出身の経営学者C・K・プラハラードが「世界の人口の75%を占める貧困層をマーケティングのターゲットにせよ」と唱え、「ベース・オブ・ザ・ピラミッド(BOP)戦略」がもてはやされた。